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第90話 海潮亭

 大きな和室に案内された。書院の付いた回廊を挟んで庭が一望出来る。  遠くに太平洋が見える。ここは少し高台になっていて、この辺りの平坦な土地には珍しく、海が望める。  開け放たれた障子の間からは、手入れの行き届いた庭も見える。 「オー、コンプリメンテ! 素晴らしい庭ですね。」  女将に上座に案内されてクロードが座る。通訳の女性(?)も隣に座る。  次にシオンとユーツーも座る。続いて龍一と貴也が座って、挨拶が始まった。  日本人らしく名刺の交換だ。 「初めまして。ワタシ、クロード・レイです。 日本語あまり出来ないので通訳のジェニファーを同席させていただきます。」 「ジェニファー岡井です。半分日本人です。 よろしくお願いします。」  ジェニファーはグラマラスで綺麗な人だった。 日本語が上手い。  クロードの代わりに名刺を差し出した。 『夢想家 蔵人・零』 と書いてある。裏返すとヘボン式ローマ字で、 Dreamer Kuraudo・Rei と書いてある。 「職業、ドリーマー?」 「そう、クロードは夢を売る人です。」 龍一も名刺を差し出した。 『T大病院 精神医学第二科    医学博士 佐波龍一』 と書かれた名刺。初めて見た。カッコいい。 「俺、名刺なんか持ってないよ。」 「貴也は自己紹介すれば。口頭で。」  シオンに促されて 「えーと、野田貴也です。 カフェ『暖家』と言うところで働いてます。 バリスタ見習いです。」  続いてユーツーが自己紹介を始めた。 「ユーツーと呼ばれています。モデルです。 10年くらいになるかな。僕はゲイです。 そして,リバ。興味ありますか?」  挑戦的な言い方だった。 「僕はシオン。もうみんな知ってるよね。 今更自己紹介って言っても、ねぇ。  あ、そうだ、佐波先生は僕の主治医。 お世話になってます。」 「ワタシは通訳のジェニファー岡井です。 生物学上はまだ、男なの。 オッパイは本物。ホルモン注射のおかげ。」  みんなそれぞれ訳あり、の様相を呈して来た。 女将が顔を出した。 「お料理、運んできますね。 まずは清酒を一献。冷酒を召し上がってくださいな。大吟醸、地酒です。」

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