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第91話 波乱

 ユニークな顔ぶれだった。みんな冷酒でほろ酔いだ。場の空気が和やかになった。アペリティフの大吟醸に合わせて様々な酒肴が並べられた。  美味しい魚料理。腕の確かな板前の新鮮な魚料理にみんな大喜びで、箸が進む。 「こんなに楽しい会食は、日本に来て初めてだ。 何故かみんなイタリアンのフルコースの店にばかり連れて行くんだ。  ワタシは醤油と山葵で食べるお刺身が大好きなのに。」 「へぇ、生魚食べられるんだ?」 「箸使いも上手いだろ。」 「はあ、確かに。」  龍一が頭を撫でて、 「ウチの貴也は、頭がいいんですよ。」 なんか酔った龍一がつまらない事を言い出しそうだ。 「この頃はお茶を淹れる方が得意になったけど、 私の学生だった事もあるんだ。」 「あ、僕は医学部じゃないです。中退だし。」 シオンが 「へぇ、T大なんだ。カッコいい。」 「なんか馬鹿にしてるだろ。」  ユーツーが話しかけて来た。 「T大だったら、ロジャー先生を知ってる?」 「え?物理学のロジャー五十嵐? ユーツーは知り合い?」 クロードが 「ユーツーの元彼だよね。 ワタシが引き裂いたようなものだった。」 「言わないで、クロード!」  龍一は、昔そんな事を聞いた気がする。 学部長の娘と結婚して一晩で別れた、と言う話。 五十嵐教授はゲイだと言う噂だった。  確かその後カミングアウトして話題になった。 その離婚の原因が、まさかユーツーに絡んでいたのか?  美味しい和食を堪能して思いのほか飲み過ぎた一行は、もう帰るのが億劫になっていた。  海潮亭は料理旅館でもある。源泉掛け流しの温泉もウリにしている。女将が来て 「よろしかったらお泊まりになってください。」 みんながその気になった。が、部屋割りの問題があった。誰と誰が同じ部屋に泊まるのだ?  今日が初対面の者もいる。部屋はみんな二人用になっている、とのこと。思わず顔を見合わせた。 「面白いからクジ引きにしよう。」 クロードがとんでもない事を言い出した。 「誰と誰が同室になってもいいって事で。」  一体どうするんだ? 貴也は酔いが冷めた。

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