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第98話 ジェニファー 

 ジェニファーがボス社長に分厚い封筒を渡した。 「これはみんなの支度金。ただで働いてもらえない、ってクロードから。」 頭割りでも1人三万円くらいにはなるだろう。 「ま、みんなで割ると少ないけど,アルバイトみたいなもんで、よろしく。  時間拘束しちゃって悪いね。」 「いや、ありがたいです。 みんなプーみたいなもんだから。」  日雇いで倉庫とかのピッキング作業をやっているという。田舎は雇用が少ない。  走り屋と言っても車にかける金はあまりない。 「クロードは人を使う事に長けてるね。」 「意外とイタリアで下積みが長かったんだよ。」 「苦労人なんだ。」  貴也は、世界最先端のファッションデザイナーと下積みが結びつかない。 「貧乏くさい話は終わり。 そういうこと、クロードは嫌うから。」 ジェニファーは色々訳知りのようだった。 「海岸の駐車場でラップバトルやるって宣伝しますよ。時間くれませんか?」  走り屋のボス社長から、DJシロが話を受け継いだ。  みんないかつい顔の連中の中で、年令も少し上の貴也は頼りない感じになっている。  龍一と虎ニが背中を叩いた。 「貴也、不安そうだな。」 「なんか得意な事、ないの?」 「ないよ。何にも特技なし。俺はつまらない奴なんだ。」  ガックリと肩を落とす。 「今日はみんな集まってくれてありがとう。 来週あたりラップバトルを撮影させてもらいたい。よろしく!」  走り屋は解散となった。 「あのバーに行ってみないか。」 龍一が言った。バー『トリスタン・ツァラ』の事だ。ここからなら近い。千尋の店だ。マスターの千尋は貴也の元セフレ。気まずい。  さっきからカメラマンが写真を撮りまくっている。デジタルだからすごい数だ。  全部記録に残るのか。貴也はウンザリした。  久しぶりに千尋のバーに来たご一行様。 「いらっしゃい。不思議な顔ぶれだね。」

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