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第101話 知らない顔
この頃の貴也は一段と垢抜けて来た。ただ、そこにいるだけでかっこいいのだ。
まだ、カフェ『暖家』で働いている。
「貴也、そのシャツいいねぇ。
どこで買ったの?」
とおるに聞かれて
「ああ、クロードの新作だって。
身頃のカッティングが変わってるんだよ。
身体が動かしやすい。」
「動きがきれいだ。貴也がカッコよくなったからかなぁ。」
「やめろよ、照れるよ。」
カウンターの向こうで珈琲を淹れる姿にファンも多くなった。常連の女子高生が
「また、シオンとユーツーとか呼んでよ。
貴也は友達なんでしょ。」
仕事をしている時は楽しい。気がつくと帰る時間だ。この頃は龍一が迎えに来る。
あの旧車パサートで、店の3階に部屋があるのに、家に連れ帰ろうとする。
「今日は自分の部屋に帰りたい。
龍一がこっちに泊まれば?」
「狭いからなぁ。」
「和室に布団だから落っこちる心配はないよ。」
結局龍一が泊まることになる。
マスターも奥さんも龍一の事は知っている。
「お疲れ様です。お先あがります。」
肩を並べて部屋に行く。ドアを開けたら抱き寄せられた。
「この頃、貴也の心が見えないよ。」
「お医者さんの目で見ないで。分析はいらない。」
座卓の前に座って、体の大きい龍一の胡座にすっぽりと抱き込まれた。
「ああ、動けないよ。」
「動かなくていいだろ。」
(貴也が男っぽくなっている。私だけの貴也。)
龍一の膝にまたがって抱きついてキスした。
「ジーパン脱いでから乗ってこいよ。」
「ふふふ、待てなかった。」
シャツの背中に手を入れた。直に触るのが気持ちいい。
「このシャツ、手触りがいいなぁ。
脱がせたくなる。」
「一緒にお風呂に入ろう。狭いけど。」
龍一が着ているものを乱暴に脱がせて部屋に投げ散らかす。
(ああ、あの時のシオンの服。ソファに散らばってたのは、待てない龍一の仕業だったのか。)
あの夜の龍一のマンションの中を思い出した。
「やっぱり、嫌だ。龍一が詩音を抱いた事。」
「そんな事、思い出すなよ。」
キスで止められた。
「バカだなぁ。私はもう忘れたよ。」
「ひどいな、龍一。」
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