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第103話 10のマイナス24乗
クロードの新作が出来て来た。
「外で撮影しよう。」
いつも龍一がそばにいる。
また、走らされる。今度も着心地のいいシャツが主体のデザインだ。
変わったパンツ。緩いズボンのウエストを細い革ベルトで絞めている。
素肌の平らな腹に締めたベルトだけで、上に着た緩いシャツが捲れる。
時々チラッと見える滑らかな腹と臍。
「龍一も絡んで。」
カメラマンの声に
「えっ?」
引き締まって細い腰を龍一のゴツい手が支える。
いつも鍛えている龍一の身体がクロードの目に止まった。筋肉が見事だ。
龍一にも新作の服が用意された。
風の中で髪が乱れる。かきあげるしぐさがまた、セクシーだ。
オーバーサイズのシャツのボタンを外して、龍一の大胸筋が見えた。誰もが抱かれたい、と思うに違いない龍一の胸。
細い腰を両手で掴んで抱きしめる龍一の手のアップ。逞しい胸が貴也を抱きしめる。
PVで話題をさらったシーンだ。海をバックに抱き合う二人。
昨夜の名残が二人をセクシーに見せている。
(ヤリまくったのがバレてるなぁ。)
「いいねぇ。二人の方が。貴也の硬さが取れてる。」
硬いどころか、龍一にメロメロなのだ。
PVには、二人とも出演が決まった。
あと、ラップのシーンを撮りたい。
ラップバトルの日にちが延期されていた。
「何か、トラブルでも?」
「なんか、この前の走り屋たちが、チームを立ち上げたそうです。」
あの社長と呼ばれていた人は、山崎と言って中々の切れ者らしい。地元の若いもんに慕われている。
いろんな奴がいるが、たまたま車好きでセルフのスタンドに集まって来た連中だ。
仕事もいろいろ、プーもニートもいた。
チームの仲間がまとまって来た。名前をつけて、名乗りを上げたそうだ。
「面白い、ジャパニーズギャング?」
「その言い方は日本では、顰蹙を買うよ。」
「涅槃寂静(ねはんじゃくじょう)という名前だそうだ。」
エージェントが話を聞いて来たらしい。
今時はみんな、ビッグになりたい、世界を目指す、なんて言ってるけど、逆張りしたんだ。
一番小さい所から出発するのはどうだ?
そんな意見で小さい数の『涅槃寂静』という名前が上がった。
「悟りの境地。10のマイナス24乗、か、マイナス26乗とも言われる小さい数だ。
もう伸びしろしかない。大きくなるしかない。
そういう意味だという。
この言葉は、究極の平和、や、心の解放、とも言われる。」
「小数点から右に0を24個並べた数、だって。」
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