107 / 179

第107話 虎ニの友達

「虎ニとは長いの?」 「中坊の時の同級生です。」 「あんたも、ヤクザにゲソ入れてんのか?」  原田と名乗る人は、まだヤクザではない、と言った。 「まだ? ヤクザになる気はあるのか。 すごいいい身体してるね。なんかやってた?」 「高飛び込み、を少し。」 「少しじゃねえな。その身体。」 「虎ニがモデルやれって。人数が足りないらしいんで。」  惚れ惚れするような身体と顔だった。黒髪を長く伸ばして一つにまとめている。 「腹、減ったなぁ。何か食おう。」 原田を誘って海岸の海鮮居酒屋に行った。  スマホがブルブル言っている。 「失礼します。」 原田は立ち上がって外に出た。 「何食べる?」 「ここなら焼き蛤とイワシ天丼だな。」 戻って来た原田も同じものを頼んだ。  目の前に小さなコンロが置かれて、網の上に蛤が乗せられた。 「うまそうな匂いだ。」 じゅーっと醤油の焦げる匂いに腹が鳴った。  一ダースのはまぐりは,あっという間に食べ終わって、山盛りの鰯の天ぷらが乗った天丼が運ばれて来た。 「うわぁ、デカい。」  サクサクの天ぷらは大盛りだったが、男たちの胃袋に消えた。  生ビールの大ジョッキを空けながら、気持ちよく食べる原田に龍一も嬉しそうだ。  オリンピックを目指していた、という原田の話は興味深い。  飲み、かつ、食らい、三人は意気投合した。 「虎ニとタメならまだ、若いな。 飛び込みは辞めたのか?」 「ええ、大学も辞めたので。」  通っていた体育大学を辞めた、と言う。 事情を聞いてはいけない気がした。 「それで、何もしてない俺にクロードを紹介してくれたんです。」  その頃は虎ニについて、組のシノギを手伝っていた。 「もったいないよ。タッパもあるし、イケだし。」  クロードは痛く気に入って専属契約を迫っている,と言う。 「すごいじゃん。プロのモデル。」 「貴也さんはクロードのお気に入りだって聞いてます。」 「何言ってんの? 俺は素人。アマチュアだよ。 続けるつもりはない。カフェの店員だよ。」 「ヤクザになんかなっちゃダメだよ。 虎ニはなんだって言ってるんだ?」 「うん、同じ事言われた。ヤクザなんか真っ当な仕事じゃないって。」

ともだちにシェアしよう!