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第108話 一つ屋根の下

「原田さんはどこに住んでるの?」 「あ、ケンって呼んでください。みんなそう呼びます。」 「じゃあ、ケン。」 「この近くが地元なんですが、訳あって家には帰れません。今は虎ニの所に居候してます。」 「えっ?俺たちと同じ家に住んでたの?」  龍一の住む離れ、と同じ屋敷の中に虎ニの部屋がある。この頃は部屋住みから少し昇格して、広い部屋をもらっている。若松がそばに仕えている。 「一緒に帰ろう。ケンは車? 酒飲んだから置いて行きなよ。送って行こうか?」 誰か一緒に帰る人がいるらしい、とそこで別れ た。 「龍一のお屋敷は、広くて誰が住んでるのかわからない。ケンも住んでたんだ。」  帰ると虎ニが声をかけて来た。 「兄貴、貴也、どこに行ってたんだよ。 ラップバトル超盛り上がったんだよ。」 「ああ、走りっぱなしで疲れたから、鰯天丼食べて帰って来た。はまぐりって美味いな。」  ケンのことを聞いた。 「ケンは訳ありだ。しばらくここにいる。 ほっといてやって。根掘り葉掘り聞かないで。」 そばで控えている若松も頷いた。  離れ、に帰って来て龍一が抱き寄せてキスして来た。思わず深いキスをする。 「長い1日だったね。」 「ずっと密着されてカメラ回されて、疲れたよ。」  二人でゆっくり風呂に入った。龍一が洗ってくれる。湯船の縁に顔を乗せて沈んだ。 「貴也、ここで寝ちゃダメだよ。もう出よう。」 龍一に抱きとられて、タオルで巻かれて出て来た。子供のように身体を拭いてもらう。  なすがまま、龍一に抱きしめられた。 すごい力で抱き上げる。ポフっと布団に落とされた。 「眠そうだな。眠っていいよ。」  貴也は、変な夢を見た。 ケンがプールにいる。高い飛び込み台の上。  あの綺麗な身体が、飛び込み台の上で何回かジャンプして綺麗なひねりで飛び込んで行く。空中で右に左にねじりながら、美しい弧を描いて水に落ちていく。  かなり高いのにすぐ近くでそれを見ている貴也がいる。  上がってくるケンの身体から水が、滴り落ちる。 (綺麗だ。触りたい。)

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