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第109話 ケン
慌てて飛び起きた。寝ぼけている。
「どうした?怖い夢でも見たか?」
龍一が子供にするように聞いてくる。
首に抱きついて
「綺麗だった。ケンがプールで飛び込んでた。」
「なんだよ、、妬けるなぁ。
貴也はプールに入らなかったの?夢の中でも。」
「ううん、何も。
俺は宙に浮いてた。高いところの飛び込み台を目の前で見てたから。幽体離脱か?夢らしいなぁ。
でも、楽しい夢だった。」
次の日、貴也は虎ニの部屋に行った。ケンのことが聞きたかった。
「うーん、ケンは今でもストイックに練習を欠かさない。高飛び込みが出来るプールはそんなに多くない。
今の季節なら海浜公園の屋外プールに飛び込み台があるよ。」
「誘ってみよう。近くで飛び込みが見てみたい。」
「ケンの身体は綺麗だろ。みんな知ってるよ。
国体で優勝したんだ。」
数年前の事だった。
高校生の頃から、将来を嘱望されていた。
ファンも多かった。
「アイドルみたいだったよ。」
大会があった。そこでケンは襲われた。
集団レイプだった。新聞にも載ったが、興味本位の記事で、なんの解決にもならない。
「立ち直るのにすごく時間がかかった。
今だって立ち直ったと言えるかどうか。」
男が強姦されるなんて、興味本位の好奇心をあおるだけだった。内密にしてもどこからか漏れていく。被害届を出して刑事訴追を求めたが、有力者の横槍で揉み消された。
マスコミがおもしろおかしく書きたてて、捏造記事が後を立たなかった。
「キモイ。本人も変態なんだよ。
男、誘ってたんじゃないの?」
「キモイ、男の色仕掛けなんて。」
心無い、あること、ないことを書き立てられて、ケンは自殺未遂をした。
そしてしばらく高飛び込みは出来なくなっていた。今はまた、復帰しているが。ケンから高飛び込み、を取ったら、抜け殻だったろう。
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