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第110話 合宿
高校生の時に頭角を現したケンの高飛び込みが話題になった。
「超高校級。すごい身体。日本人離れした筋肉とバネ。」
スポーツ新聞が取材に来た。ウチの高校は大会で常勝した。県大会も終わり、国体の強化選手として合宿に参加した。全国の有望な選手が集まる場所。
合宿所には女子の棟もあり、食堂は一緒だったから、選手たちはみんな異性を意識した。
(俺は興味ないな。なんでみんな女子の目を気にするんだ?)
それぞれ、優秀な選抜メンバーたち。高飛び込みは競技の性格上、スタイルのいい、綺麗な人が多かった。
女子と接触出来るのは,食堂だけ。男子のほとんどは意識しまくり、だった。
10代の血気盛んな若者たち。女子もこちらを意識しているようだ。
「男女交際は大会が終わってからにしろ。
ここでは禁止だ。わかってるな⁈」
強面のコーチがいつも念を押す。
それでも、ピチピチギャルの女子選手が、際どい服装で近寄ってくる。男たちは目のやり場に困った。
高飛び込みの競技の時には、水の抵抗を減らすために極力、布の少ない水着を着ている。女子はワンピース型だがハイレグだ。
見慣れているはずなのに、私服はまた、違った色気がある。
男子も出来るだけ小さなパンツを穿く。ビキニ型の物だ。
競技中とは違って、食事に来ている女子たちのミニスカートの足やタンクトップの胸の谷間が、やけに扇情的だ。
「ねえ、連絡先、教えて。」
ケンに女の子が殺到した。
「明日の決勝が終わったらもう会えないでしょ。」
自分の連絡先を書いたメモを渡してくる。他の男子たちが嬉しそうに返事をしている。声が掛からなかった男たちの視線が刺さる。
「俺、スマホ持ってないんだ。ガラケーだよ。
メールもしない。アドレス持ってない。」
「何?ケンって化石?友達いないの?」
「うん、いない。」
虎ニの顔が浮かんだ。友達。
「ケンって根暗っ? あり得ない!」
離れて見ていた男子が羨ましそうに
「ケンって変わってんな。」
「ああ、高飛び込みと結婚したんだ。」
大会が終わって、周りの予想通り、原田健一郎が優勝した。高校生の部だけでなく、成人男性の全体でも総合優勝だった。
表彰台の上から、選手たちの悔しさが見えるようだった。
中でも最後まで残って接戦だった優勝候補の、
合田一太(ごうだいちた)の悔しそうな顔が睨みつけてくる。刺さる視線。
合田は代々続く飛び込み選手の家系だった。祖父も父もオリンピック選手だった。
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