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第111話 拉致
「俺、人に負けた事無いんだ。
おまえが初めてだ。」
合田に呼び止められて、ギリッと睨まれた。
他の選手たちが噂している。
「合田は今いちだったよ。水飛沫が大きかったし。ケンに文句言うの、おかしいんじゃね?」
「やっぱ、ケンが1番綺麗だったよ。素晴らしかった。」
「ケンにしか出来ないだろ。
アームスタンド(逆立ち飛び込み)からのリバース(前逆飛び込み)、インワード(後ろ3回転)
すごかった。誰にも真似できない。」
合宿で知り合った選手たちは、勝敗が決まるとほとんどが潔く祝ってくれた。
中には睨みつけてくる奴もいた。合田の取り巻きたちだ。
「気にすんなよ。合田は優勝できなかったら引退だって、親父に言われてるらしい。」
体育大学の推薦枠からも外れたという。ケンは推薦をもらった。
その日、荷物をまとめて合宿所を出た所で、黒塗りの大型バンに引き摺り込まれた。ケンを乗せた車はどこかへ走り去った。
少し遅れてケンのただ一人の友だち、佐波虎ニが若松の運転で車を回して来た。
「原田選手?もう帰ったよ。」
合宿所の世話係が言った。
「荷物多いのに、1人で帰ったのか?
みんなお祝いの席を用意して待ってるんだ。」
中学時代の同級生たちが集まっている。
今日は虎ニの家に泊まることになっていた。
「行き違いになったのかもしれないから、一旦、帰ろう。」
薄暗い体育館のような所へ連れてこられた。
深さ4mくらいあるプールが併設されている。ここはどこだ?
よく知っている匂いがする。プールの塩素の匂い。
屈強な男たち数人に担ぎ上げられて、中に入った。湿っぽくて硬いプールサイドの床。
(練習用のプールか?個人でこんな設備を持っているのか?一般人ではないな。)
ケンがいろいろ思い巡らせていると、いきなり鳩尾を殴られて息が詰まった。
「ぐっ、はあ、何だよ?」
立て続けに殴られた。殴り方が慣れている。
「おまえを好きにしていいって言われてんだよ。」
気持ちの悪い男が嬉しそうに足でケンを転がした。Tシャツにハーフパンツのケンは、すぐに裸にされた。
「足を折っていいと言われてるんだけど、綺麗な身体だ。もったいないから壊さないようにいただくよ。」
男は、自分はゲイだ、と言った。舌舐めずりしているようだ。
周りで見ている男たち。
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