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第116話 惚れた
李はしみじみケンを見つめた。
「おまえを離したくない。
酷い事したけど、許してくれ。
俺の事を愛してくれ。」
(可愛い人だな。俺を見つめるその目は信じられる。)
ケンは優しい気持ちになった。あんなに酷い事をされたのに、何だか切ない。
李は港湾労働者の父を持つ。父は荒っぽい沖仲仕だった。今はほとんどコンテナになり、重機オペレーターの仕事となり、沖仲仕の仕事はなくなった。
昔はキツい重労働に中国人や韓国人も多かった。港湾の利権争いが何度も起きた。
制圧するのに、力、が必要になった。そこに入り込んで来たのはM会だ。
広域指定暴力団M会傘下の半グレ、赤ドラゴン。李が中心になって作った。
時代にあぶれた若者、祭ろわぬ人々。
荒っぽい世界を生きて来た。荒っぽい父親を見て来た。母親は李を生んで、すぐに出て行った。
女には憎しみしか感じない。
ケンは李の寂しさが見えた気がする。
「ケン、帰りたいか?」
肩にもたれて頷くケンを抱きしめる。
「どうしちまったのかなぁ。ケンが好きだ。」
「何で?気のせいだよ。
俺は、李に拐われて来たんだよ。
強姦されたんだ。好きだなんて言わないでよ。」
車の音がした。ドアを荒っぽくたたく音がする。無理矢理こじ開けて虎ニが入って来た。
手に持ち慣れないチャカ(拳銃)を待っている。後ろに若松が控えている。
「虎ニ!よくここがわかったね。」
「ケンがいなくなって三日も経つ。
大丈夫だったか?ケガしてないか?」
もう後孔の傷も治ってきている。あれ以来、李はケンに手を出さなかった。
「うん、ケガしてないよ。」
頬を赤らめて答えるケンに、若松が気付いた。
「何だか、友好的ですね。」
不穏な空気はない。拍子抜けしてしまった。
「無事なら良かった。帰りましょう。」
若松の声に、李が立ち上がった。
「こんな物騒なモン持って挨拶なしかい?
何もなく、帰れると思ってるの?」
ズラッと用心棒らしき男たちに囲まれた。
今、柳生さんたちも兵隊を連れてこちらに向かっている。到着すれば大戦争になるだろう。
ケンは李にしっかり腕を取られている。
「俺は、帰るよ。」
ケンの言葉に李は寂しそうに頷いて立ち上がった。
「また、会えるかな?」
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