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第117話 中毒者

 ケンは無事に帰って来た。ひとまず、虎ニの家に連れて来た。 「ケン、何か言う事ないの?」 「大丈夫だよ。」 「李の野郎に拉致られたって、見てた奴がいたんだよ。」  確かに李に殴られたし、怖い思いもした。 足を折るとか、もう飛び込みも出来なくしてやる、とか言われたけど、結果、無理矢理犯されたのだった。それでも李の行為に一筋の愛を感じた。 (俺はバカだなぁ。恨む気になれない。)  李のキツい眼差し。酷薄そうな無駄の無い引き締まった顔に鋭い一重の眼。  睨まれたら、息が止まる。ケンカにならない。 その眼だけで人を殺せる。  長い黒髪を一つに結んだキリリとした面差し。 ケンには忘れられない男だった。  あの後、柳生さんが乗り込んできて、あの廃ビルを通報した。  違法薬物のフエン○ニルの密輸が絡んでいるらしいと柳生さんも裏筋から聞いていた。  覚醒剤でも、大犯罪なのに、この頃、噂になっている猛毒のフエン○ニルが絡んで来た。  警察も内密に、と内閣秘密情報局からのお達しだった。  致死量は一人2グラム。それで天国へ行く。本当に直行する奴も、ゆっくり旅立つ奴もいる。  数トン規模の密輸は国家を揺るがす大問題だ。 アメリカではゾンビ麻薬と言われ、恐れられている。絶対に日本国内に持ち込んではならない。それをこの港は、精製してアメリカに持ち込むための、ハブに使われている。  事はあまりにも大きかった。佐波一家にも箝口令が敷かれた。なぜ、政府が隠すのか。  それほど危険な薬なのか。この所、わずかながら広がりを見せている。  李は、覚醒剤を使って若者をゲイに引きずり込んでいた過去がある。シャブは自分もたまに使ったから、もう常習者かもしれない。 (ケンはどうしているだろう。 身体にシャブを使ったから、 また欲しくなってるかもしれない。)  可哀想な事をした、と思う反面、自分のものにしたい、と欲望が顔を出す。  今までの男たちは使い捨て。廃人にして捨ててきた。  フエン○ニルに関しては、絶対に外に出してはならぬ、と厳しく管理してそのままコンテナから出さない。その怖さを知っている。 (因果だなぁ。もうこの商売からは手を引きたい。)  弱気になっている。気持ちが落ちて来ると シャブに手を伸ばす。  ヤカンに水を沸かし、ふたに溜まった蒸留水にワンパケから振り出した粉をかき混ぜてポンプに吸わせる。

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