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第118話 覚醒剤
「ふう〜。」
腕の内側に針を刺してホッと一息。心臓が跳ねる。鼓動が激しくなる。
「ああ、誰かにぶち込みてぇ。」
自分の逸物がギンギンになっている。ケンの泣き顔が浮かぶ。
生まれて初めて、自己嫌悪に苛まれた。
ベッドに倒れ込む。眠れなくなるのだ。躁の状態が続く。以前のような多幸感はやって来ない。
「何か、眠剤、幸せに眠れる薬が良かった。」
フェン○ニルに手を出しそうになる。
(これをやったら、人生が終わる。
幸せになれる訳がない。
俺はケンのような奴と幸せになりたかった。
幸せって何だったか?
俺の知らないものだ。)
いつの間にかヤクの元締めになっていた。
「赤に関わるとヤバいよ。人間じゃなくなる。」
「李星輝はどんな残虐な事も平気でやるよ。」
そう言われるのが勲章だった。金が入る。金に絡んで町の有力者が寄ってくる。金儲けに人は付いてくる。
裏で手を汚すのが李星輝、赤ドラゴンの仕事になっていった。
「うちの仲間はみんなシャブ中になって行く。
使えねぇな。」
だんだん廃人になって行く。精神病院には、すっかりお得意様になった。
(この前、ケンを迎えに来たのは、佐波一家と言ったか?)
ヤクザがキレイ事言ってんじゃねえ。
「李さん、ウチはヤクは御法度。すぐ破門です。
あんまり調子に乗ると、こっちも示しがつかねえんで。」
(脅しをくれて行きやがった。いいんだぜ。
いつだって戦争始められる。)
シャブで気が大きくなっている。
怖くて怖くて仕方がないのに何かをぶち壊したくなる。
「ねえ、李星輝、遊んで。」
いつも周りをウロチョロしている、自称従姉妹の
涼鈴(スーリン)がやって来た。
「タバコちょうだい。」
指が曲がらない。突っ張った指の間に紙巻きを挟んで器用に火をつけた。その手を掴んで
「おい、指の間に打つのはやめろ。」
覚醒剤を指と指の間の皮膚に打つのだ。
もう、どこにも打てないから、一番敏感な指の間。手が曲がらない。掌が握れない。
「そんなになっても、辞められねぇのか。」
こいつに初めてシャブを打って犯したのは、李だった。
従姉妹の張涼鈴(チャンスーリン)。
本当に従姉妹なのか?真偽はわからない。親父も適当だから。
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