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第119話 大学生
程なく、ケンは実家に帰って体育大学に進んだ。推薦で入った大学で高飛び込みの選手として将来を嘱望されたのも,束の間。週刊誌がその記事をすっぱ抜いた。
「スポーツ選手の闇。
高飛び込みの原田健一郎、ゲイ疑惑。
集団レイプの被害者?
なぜ被害届を出さない?
大学を上げて隠蔽工作か?
他にもレイプ事件が!」
おぞましいスキャンダルのてんこ盛り。
祭りが始まった。
リークしたのは地元の議員。元オリンピック選手の合田一太の父親だった。李たち赤ドラゴンを使ったのもこの男だった。
警察は見て見ぬふりだった。国際問題になりかねない、フェン○ニル絡みのデリケートな時だったのだ。
ケンが矢面に立たされた。大学は
「知らなかった。知らされていなかった。
高校時代の国体の後でしょう?
大学に入る前ですから、ウチは関係ない。
隠蔽なんかしてませんよ。
選手の自己責任でしょう。」
まるで、ケンが悪いような言い方だった。
ケンの性癖がレイプ事件を引き起こした事にされた。
「ホモなんでしょ、キモい!」
世間の騒ぎやマスコミ報道を見て腹を立てたのは李星輝だった。
(俺がケンを犯したんだ。元々ホモじゃなかった。スキャンダルじゃないんだ。)
大学側は暗黙の嫌がらせをして来た。結果、ケンは自主退学せざるを得なかった。
国体優勝、期待の新人だったから、持ち上げられて、あっという間に落とされた。
それでもケンはストイックに練習を重ねた。民間のスポーツクラブ。
「ねえ、原田君ってすごいイケメンだけどホモなんだって。キモっ。」
女子たちが告っても、相手にされないので、腹いせに噂を流す。
ケンはあれ以来、誰とも付き合わない。自分をゲイだとは思えない。違うとも言い切れない。
心の中に忘れえぬ人がいた。
誰も気づかなかった。ケンの心は引き裂かれていた。
ある日虎ニは、スポーツクラブを辞めたケンが帰って来ない、と親から連絡をもらって探し回った。
「すごく胸騒ぎがする。
もう探すところがないよ。」
若松が
「あの廃ビルはどうでしょう?」
板が打ちつけてあり、入れないようにしてある。壊して無理矢理入った跡も見えた。
駆けつけた虎ニが見つけたのは、自分の首を切って倒れているケンだった。そばに何かの薬の瓶が落ちている。たくさんはいっていたのか、瓶は空だった。
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