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第120話 虎ニの家
ケンの自殺は未遂に終わった。若松が首の止血をして、虎ニが救急車を呼んだ。胃洗浄やら何やら震えて、よく覚えていない。ヤクザだってこんな事に慣れてる訳じゃない。
今は虎ニの家で暮らしている。広い屋敷だから空いてる部屋もあった。
この頃のケンは、市民プールで飛び込みの練習をした後、虎ニの家に帰る。あの一件以来、虎ニはケンから目が離せない。
ケンの親はもう諦めていた。田舎町で合田の息のかかった企業で働くケンの親には、それでなくても風当たりが強かった。
合田一太を差し置いて国体で優勝した事が、会社で尾を引いていた。
ケンの親はヤクザの息子の虎ニを嫌っていたが、自殺未遂を起こした厄介者のケンを引き取ってもらって喜んでいた。
「ここは居心地がいいなぁ。
虎ちゃんと若松さんを見ていると羨ましいよ。
堂々と付き合ってるんだね。」
「たまたまだよ。ウチはゲイの家系かもな。
兄貴も彼氏がいるよ。」
「えっ?誰も後ろ指、差さないの?」
「もう、諦めてんな。」
「あの、立派なお医者さんのお兄さんでしょ。
ヤクザの世界は偏見が無くていいなぁ。」
大いなる誤解である。
ケンは惚れ惚れするいい男だ。全身が筋肉で出来ている。マッチョではない。スレンダーだ。
背も高い。
「クロードが誰かモデルになりそうな男、紹介して欲しいって。」
潮目が変わった。
ひと目でクロードのお気に入りになったケン。
「俺、あんまり派手な事は苦手なんで。」
高飛び込みが見たいと言って海浜公園のプールにみんなで来た。
派手なクロード御一行様。そして貴也と龍一。
若松と虎ニ。なぜか,人目を引くイケメン勢揃いだった。
圧巻はケンの華麗なる高飛び込みだ。そんなに高くない所から、アクロバティックな飛び込みを披露してくれる。
「すごい、すごい、エクセレント!
こんなに全身がきれいな人を他に知らないわ。
ただ痩せてるだけでも、マッチョでもダメ。」
クロードのお気に入りの貴也も形なしだ。
貴也は気にしない。これで、カフェの仕事に専念出来る。
みんな和やかにクロードの新作の話で盛り上がった。次のショーのテーマは
『九十九里コレクション』になった。
地元のギャルを募集する。
「モデルも地産地消ね。」
「あはは、我々は地場野菜かな?」
そんな平和な中で、港の方に不穏な動きがあると、ヤクザたちが落ち着かない。
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