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第121話 廃ビル
ケンは髪を伸ばし始めた。イメージは李星輝だ。染めていない黒髪をキリリと結ぶ。引き締まった小さい顔が、人目を引く。
「ケンってあんなにかっこよかったっけ?」
ファッションもクロードが揃えてガラッと変わった。古い友人は気付かない。
「ケン、恋人はいないの?」
「あまり、考えたくない。」
佐波一家に港の不動産屋から連絡が来た。
「買い取ってくださいよ。
自殺未遂した物件なんて、気味悪がって誰も買わない。組長に言ってくださいよ。」
荒んだ感じの男だった。M会の息のかかった狡そうな男。車の中にも数人、人相の悪いのが乗り込んでいる。
「佐波一家と知って、直接来るなんてのは、クソ度胸の輩だ。」
組長の大門が直々に迎え入れた。
「あの廃ビルは、買い取ってもいい、と言った時と今とでは状況が違う。
いくら欲しいんじゃな?」
「ま、老朽化してますんで10億って所でしょうか。」
若頭の柳生が立ち上がった。後に数人、懐に手を入れた若いのが続いた。
「相場は3億だ。インフラも使えねぇだろ。
もう壊す方が金がかかる。危険で潰しがきかねぇ。足元見やがって。」
彼らも持て余しているはずだ。あの合田一太の父親の持ちビルだった。何重にも抵当権が付いている。水道代も焦げ付いている。
選挙にバラ撒く金が必要で金に汚いと評判の父親だった。
「あんまり、聞き分けがないと、赤の若いのが黙ってないよ。こちらさんは穏健派の昔からの侠客さんでしょ。ご立派だねぇ。」
ケンカも買わねぇ、と侮っている。
「今度、海岸でファッションショーやるんだって?無事に出来るとよろしいなぁ。」
もうポスターが出来て辻々に張り出されている。ネットにも拡散されている。
都会的なイケメン、ケンがメーンのポスターだ。
「誰?」
「素敵!」
「カッコいい!」
ポスターの前評判は良かった。マスコミが取材して好意的に書いてくれた。
組長の大門が
「廃ビルは様々な犯罪の温床になっている。
やはり、ウチで買い取ろう。」
柳生さんが懸念している。
「あの場所は、M会の真っ只中だ。四面楚歌ですよ。周りは全部敵だらけ、だ。」
「フェン○ニルの事もある。
港に拠点を作って、何としても
荷揚げを阻止しなければ。」
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