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第122話 李星輝

 いつもの家。森の奥にある。港からは車で10分ほど。李星輝の家だ。アジトと言った方がわかりやすいか。  割と大きい古民家を買い取って改装している。 広い居間に赤ドラゴンのメンバーがたむろしている。用心棒兼兵隊とでも言おうか。  大半が大陸から来たチンピラだった。日本は法が緩い。中国人にも優しい。  華僑のボスは、見捨てられたような限界分譲地と称される土地を買い漁ってヤードにしている。  ゴミ置き場。廃車の山。港に近いから日本人が捨てたものを直して輸出する。盗品もある。銅線とか。  それに混じってヤクの密輸。李星輝は暴力と度胸でのし上がって来た。金を作る事に長けている。 「俺に正義なんかないよ。」  フラフラと家の中をうろつく張涼鈴(チャンスーリン)。 痩せ細って女としての魅力もない。そうしたのは李星輝だ。愛なんて感じた事はない。誰にも、だ。  女はスーリンで、もううんざりした李星輝はいつごろからか、男色になった。 「男がいい。硬い身体の美少年。」 いつも、さらって来て、もて遊ぶ。赤ドラゴンに入りたい、という者も餌食になる。  赤、故国の色。大陸の象徴。 赤ドラゴンは、李星輝の性癖のせいか、ゲイの若者が多い。彼女や女房を持っている仲間もいる。 子供が生まれる。  この家の周りに家を建て、住み着いて子育てをしている。山の中に一大コロニーが出来ている。 「李、この頃、誰も連れ込まないね。 セックスしないのか?溜まってるだろ。 誰か連れてくるか?男?女?」 「いや、いい。女連れ込むとスーリンが狂うからな。」 スーリンの嫉妬がうるさい。俺が面倒見てるからって,嫁でもない。  もう長くないだろう。シャブ中で、ほとんど何も食べない。歩く幽霊だ。  みんな気味悪がって、近寄らない。干からびて死んで行くのだ。父親もそうやって死んだ。  スーリンの本当の親は誰だろう。そのうち確かめよう。俺の妹だったら、嫌だ。  吐きそうになる。名字が違う? 「俺はいつから狂ったのだろう。 こんな暮らしに今まで疑問を持った事はなかった。誰にも、執着した事もない。」  あの男だけ。ずっと心にひっかかっている。 ヤクを塗られて啼いた甘い息。  乱暴にした。壊したかった。正気に戻って、突然、憐憫の情が溢れてきた。  あんな気持ちは自分でも、理解できない。 「初めての感情だった。」 もう、他の誰も欲しくない。 あの筋肉の張り詰めた身体を抱きたい。

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