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第123話 モデル
ケンのテレビCMが話題だ。引き締まった細い腰にまとったクロードの新作パンツ。
不思議な形で空気をまといつかせているように、海をバックに踊る。
『ファッションは今、重力を捨てた。』
のキャッチコピーの通り、軽やかに舞う。
それも鍛え上げた筋肉がなせる技だ。
「ケンの背中にはきっと羽が生えてる。」
マスコミの評価にネットもバズる。
「いいね、いいね。
ショーの前評判でこんなに盛り上がるなんて。」
ショーにはラッパーたちも出演が決まっている。貴也がカフェの常連の女子高生たちに声をかけた。みんなノリノリだ。
若い女の子が増えた事でラッパーたちのテンションも爆上がりだ。
「アタシたち、モデルって事?」
「マジかぁ。」
テレビCMにもちょい役で出演した。
「田舎のお祖母ちゃんにも教えてあげたんだ。
メイちゃん、テレビさ、出てる!たまげた。
って喜んでた。」
スポットCMでも全国ネットだ。田舎はまだ、
テレビ信仰が生きている。
「クロード、今回は随分泥臭い演出ですねぇ。」
「新しいでしょ。これこそジャパンよね。」
一人になると寂しい。この頃ケンはふとした時に寂しさに打ちのめされる。
(何が欲しいんだろう?何が足りないんだ?)
答えはわかっている。李に会いたいのだ。
どこにいるのか。探す事は出来るだろう。危険な匂いのする所へ、行けば会えるかもしれない。
死場所を探してさまよったとき、見つけて欲しかったのは、李に、だった。
会いたかったらあそこに行けばきっと、誰かに聞ける。でも、怖くて行けない。
あのビルは虎ニの父親が買い取ったそうだが、壊されもせず、そのままだった。
あんな酷い思い出しかないのに、なぜか、大切な場所。
組を通して赤ドラゴンに話をつけてもらう事は可能だろう。でも、それはしたくない。
あの冷たい悪魔のような李の眼。それがふっと微笑んでくれた時、ケンは恋に落ちた。
(会いたい。李に会いたい。
どこかで俺のポスターを見つけてくれるかな。
覚えているかな?)
ケンは王子様を待つような気持ちだった。
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