124 / 179

第124話 ジャンキー

 スーリンはもう末期症状だった。 「おまえ、何やってんだよ。これ、シャブじゃねえだろ。」  赤ドラゴンの若い奴に聞いた。 「なんか、知らない奴が配ってんだよ。」 他の若い奴も来た。 「李、ヤバいよ。変なの、くれるんだ。 売人、紹介しろって。」 「そいつ、捕まえて来いよ。どこにいる?」  港の空き倉庫に溜まり場があると言う。 若い奴数人でその倉庫に行った。スーリンも連れて行く。 「おいっ。勝手にコンテナから出すな! こんな所に運び込んで。」  大きな古い倉庫にコンテナを積んだトレーラーが一台、運ばれていた。 扉が開けられて、中から何か運び出されていた。 「誰だよ。誰の許可、取ったんだ!」  李は中の荷物を引き出してみた。 小分けにされた段ボールから、一本ずつバックになったものがパラパラっと落ちた。薬剤補填済みの注射器だ。瓶詰めの錠剤のような物もぎっしり入っていた。 「パックはお試し用よ。他の箱は大容量の業務用ね。吸うためのパイプもあるね。」 「中身はなんだよ。」 明らかに中国訛りの男が言った。 「アメリカではトランクって呼ぶね。 フェン○ニルとキシラジンの合成物よ。 フェン○ニル単体だと致死量は0.2mgよ。 かなりヤバいクスリね。」  李は致死量は2gだと聞いていた。自分の無知に焦る。 「おまえら、ここで売り捌く気か?」 「だからお試し、ね。」 日本で流行らせたらヤバい。 「何、勝手にコンテナ開けてんだよ。 誰のシマだと思ってんだ! うちのスーリンに使ったのか?」  スーリンは前屈みに身体を二つ折りにして、フラフラと立っている。 「しっかりしろ!」  ここまで、無理矢理ついて来たスーリンを抱き抱えた。もう、人間じゃないみたいだ。まるでゾンビ。 「星輝、苦しかったの。怖くて怖くて、そのお兄さんが注射してくれた。 今は怖くない。ただ、だるいだけ。 まっすぐ、立ってられない。」 「心臓が弱ってるんだぞ。 なんて事してくれたんだ!」   倉庫にいた奴らは明らかにジャンキーだった。みんな身体が揺れて、二つ折りになってやっと立っている。  李は誰に怒りをぶつけたらいいのかわからなくなった。みんな弱っているようだ。 「元締めは誰なんだ?日本では、荷を解かないって言ってたのに。」

ともだちにシェアしよう!