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第125話 離脱

 トレーラーを運転して来た奴を探した。 「俺、港のクレーンの一つに待機するように言われたんで。」  クレーンがコンテナの一つを積み込んでこの倉庫に来たと言う。運転手は日本人のようだ。 「なんか、中国人がコンテナこじ開けて中身を出し始めた。ヤバい、と思ったけど逃げ出せなかった。」  中国人はみんな素面ではないようだ。何かのヤクをやっている。 「李は、知ってたのか? こんなヤバいヤクを積み込んだコンテナだという事を。」 片腕と信頼している呉白日に責めるように訊かれた。 「今度のコンテナはアメリカに行く物だ。 昨日港に着いたばかりだろう。  華僑の梁が全責任者だ。M会も一枚噛んでんだろ。俺は知らされてなかった。」  李星輝は悔しそうに言った。 どうせ半グレのガキの集まり、赤ドラゴンだ。  蚊帳の外、に置かれたのも仕方ない。 「若造だと、見くびられた。身内のスーリンが、ヤクのお試しに使われるとは。」 「ヤバい薬なんだろ。 早く病院に連れてかなくちゃ。」  とりあえず若い奴に車を回してもらった。  いつも行く病院に急いだ。 「スーリン、何を摂取したか、わかる?」 「なんか、フェンタニルとキシラジンの合成麻薬だって。中国人が言ってたよ。」  いつもの女医が驚いて口を押さえた。 「噂が出回ってるわ。六本木の方で少し見つかったって。外国人が多い所。」  解毒の方法を知っている医者がいた。 「ナロキソンの静注したよ。 でもシャブもやめられないんだよね。」  ここの医者は、通報しないでくれる。李たちにはありがたい。  違法薬物でシノギをしている半グレの身で、新しい麻薬をとやかく言える立場にない。  李はつくづく堅気になりたい、と思い始めた。 (今まで、違法行為しか知らないのに、何、きれいごと言ってんだよ。)  この気持ちの変化は何だ? 自身もシャブが身体から抜けない。 「先生、リハビリ出来ますかね? 俺。」 「ほう、その気になったか。 いつでも離脱療法、やってあげるよ。 隔離病棟に入院だね。拘束も必要だ。」  覚悟を聞かれた。スーリンも離脱療法をするという。彼女の体力は持つだろうか。

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