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第126話 張涼鈴の死
李星輝が離脱を覚悟したのは、きれいな身体になってケンに会いに行くためだった。
ケンがモデルとして活躍しているのが時折り,聞こえてくる。SNSの動画をよく見る。
クロードのファッションチャンネル。
この頃はモデルのケンの動画ばかりだ。
李は胸を熱くして視聴する。綺麗な男。
この男を抱いたのだ。いつも動画から目を離せない。
離脱療法は想像を絶するキツいものだった。
物凄い吐き気との戦い。覚醒剤を打てばスグに楽になれる事はわかっている。
「シャブ持って来い!」
叫び続けた。あの針が刺さった瞬間の解放感。
マザマザと甦る。
「ケン、おまえのために頑張るよ。」
何を今更。自分が蒔いた種なのに、悲愴感に我ながら情けなくて笑う。
離脱の苦しみの発作は、波のように繰り返す。
苦しんでのたうち回って、少し楽になって、終わったか、と期待しては揺り返し裏切られる。あの苦しみは寄せては返す波だ。
そんな心の葛藤もだんだん薄れて来た。少しは落ち着いてものを考えられるようになってきた。
そんなある日、他の病室で離脱療法を受けているスーリンのところに呼ばれた。
「おい、大丈夫か?」
顔中引っ掻き傷だらけの異様な姿のスーリンに、李は怯んだ。
「先生、これは?」
「顔中から虫が出る妄想だ。血が出るほど引っ掻くんだよ。」
手を握ってやった。医者からもう長くない、と言われている。スーリンは妄想の中でのたうち回っている。
「星輝、取れないの。
顔から気持ち悪い虫が出てくる。
取っても取っても出てくる。グチャグチャした太い蛆虫。動いてるのよ。」
思わず抱きしめた。抱きしめて顔中キスした。
「大丈夫だよ。俺が全部、口で取ってやったから、もう出ないよ。」
泣きながらキスした。
顔色が少し良くなってスーリンは可愛らしかった。
「綺麗だよ。好きだよ、スーリン。」
最後は李星輝の腕の中で眠るように息を引き取った。
「悪夢の中で死なせなくて良かった。
スーリン。張涼鈴。俺の妹・・」
この世の終わりのように感じた。
泣いて泣いて泣いた。男泣きに泣いた。
「フェン○ニルは、死に至る麻薬です。
日本に広がらないように李さんが止めてください。」
医者にお願いされた。そんな事は言うまでもない。
李はこんな稼業を辞めたい、と本気で思った。
しかし、赤ドラゴンは大所帯だ。みんなの生活があった。守るべき人々。
「俺に何が出来る?」
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