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第131話 逢えたら

 ついに電話がかかって来た。スマホに着信が。 知らない番号。李には直感で分かった。  ケンだ。 「今、どこにいる? 迎えに行くよ!」 車のキーを掴んで走り出した。虎ニの家にいると言う。場所なんかわからない。住所を聞いてナビに入れた。 (落ち着け、俺。安全運転だ。くれぐれも安全に。)  韓流ドラマだとこう言う時に主人公は事故にあって死ぬ。死亡フラグが立つ。  ハヤる気持ちを抑えて慎重にハンドルを握った。  虎ニの家はあの佐波一家だ。監視カメラを見ていた組の若いもんが大騒ぎだ。 「赤ドラゴンの李星輝がカチコミに来た。」 組の若いもんたちが浮き足立った。 「待てよ。ケンの彼氏だよ。」 虎ニの説明でその場は収まった。  目つきの悪いガタイのいい男が玄関に立っている。 「こんにちは。原田健一郎さんに用があって参りました。」  何も獲物は持っていない、と言うようにカメラに向かって上着のポケットを叩いて見せた。  虎ニが顔を出した。 「どうぞ、お上がりください。 あ、でもケンと出かけるよね。 いま、呼んでくるね。」  人懐っこい可愛い虎ニはいつもケンの良き理解者だ。同級生だった。 「行ってらっしゃい。 今夜は帰らないでしょ。 海岸の近くにリゾートっぽいホテルがあるよ。 僕と若松がよく行くんだ。」 「虎ちゃんと若松さんを見てると羨ましいよ。 俺たちはまだ、そんな関係じゃないんだ。」  ケンは李に顎をクイッとつかまれて 「じゃあ、どんな関係なんだ? いつまで待てば親密な関係になれるんだ?」 くちづけされた。 (えっ?こんな所で?) 「いいねぇ、お二人、お似合いだよ。 あそこのホテルは男同士もオーケーだよ。」 虎ニが片目をつぶって言った。   ケンは、耳を赤くして靴を履いた。 今されたキスが熱い。うなじまで真っ赤になった。 「いきなり、ごめん。ケンは恋人出来た?」  首を横に振る。小さな声で 「あなただけ。」  李は慌てて、ハンドルを握り直した。 「本当に、ホテル、行ってもいいのか?」  初めてのデートみたいにお互いに赤くなっている。切れ長の李の目が照れているのがわかる。 (あの時、恋したのはこの微笑み、だった。) 「あの、俺、李が好きだ。フルネーム李星輝? 読み方がわからない。」 「リ・シンファイ。」

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