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第137話 会食

 梁大人との会食は不穏な空気があった。例の港の荷のことだ。 「なにも、ど素人じゃねぇ。 ヤクの一つくらいどうって事はない。」  でも、この前のコンテナはヤバいもんだった。 華僑の中でも絶対に手を出すな、と言われていた。故国で方針が決まったそうだ。 「アメリカを潰す。武漢で作った前駆物質を メキシコに運ぶだけだ。」  そばに控えているのは、周りの空気を凍りつかせる鋭い空気を纏った、故国から来た党員のようだ。諜報員か。 「武漢には製薬工場がたくさんある。 その一つ、小さい工場でこの材料を合成している。まだ、麻薬じゃない。」 「日本にもスパイ防止法が必要な案件ですね。  で、俺に何か?」 「この前コンテナを盗み出した輩がいただろう。」 「ああ、海に浮いてた奴ら。気の毒な事をした。」  その酷薄な男が言った。 (気の毒だ、なんて全然思ってないんだろ。)  「あのコンテナの中身は全部回収したはずだ。 誰かがちょろまかしたのか?  李星輝、知ってるな?」 「えっ?知りませんよ。 あの時、妹が死んだんですから。」  あの離脱のために入院した病院で、病理解剖したスーリンの身体からフェン○ニルが検出された、と聞いている。 「李の妹じゃないのか?妹のために盗んだのか。」 「俺は知らない。触ってもいない。 あの華人が妹を誑かしたんだ。 妹の死期を早めたんだ!」 「フェン○ニルの流出は国際問題になる。 早急に解決しないと。 党に知られたら死刑もあり得ます。」 「わかりました。調べて報告します。 連絡はどこに?」 「梁大人にしてください。党では犯人を死刑にしないと規律が守れない、と大問題になっています。」 「死人に口なし、が故国の方針って訳ですね。」 「李星輝、言葉が過ぎるぞ。」 「今日は帰ります。急いで動かないといけません。梁大人にご迷惑をかけられない。」 「あ、李星輝、嫁をもらったんだな。 おめでとう。その方がお嫁さんか? いい男じゃないか。私の誘いを断るはずだ。 残念だよ。」  梁大人はゲイだった。

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