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第139話 海浜病院
今回のショーの主役にはシオンが選ばれた。前回のイメージを繋いで、また、地元の女子高生に出てもらう。ラッパーの涅槃寂静のメンバーも数人呼ばれて、賑やかだ。
コンセプトの説明があった。ケンが海で泳ぐ。波があって、綺麗に泳ぐのは難しい。PVだから、ちょっとしたストーリーがある。
貴也と龍一は、友人のドクターがいる、海浜病院に行った。
港から少し入った山の中。精神科に特化している病院だ。地元の患者のために普通の内科と外科もあるが、精神科の入院病棟が広い。
「やあ、久しぶり。ここの院長なのか、すごいな。」
「佐波の本、読んだぞ。新刊出ただろ。」
「ああ、今回の論文は厄介だった。
苦労したよ。」
この病院の院長は、高嶋大介と言った。龍一と大学の同期だった。理三の龍一と違って、真っ直ぐ医学部で精神医学を修めた。
「こっちは俺の嫁だ。野田貴也。同じ大学。教養学部哲学科。」
「あ、中退です。」
貴也は正直に言った。気恥ずかしい。
「ああ、佐波らしいな。カッコいい嫁さんだ。」
ゲイなのを知っているのか、こだわりが無い。
「病院の運営は大変だろ。」
「ああ、老人が多いな、認知症の。
年取ると誰でも通る道だ。
それとこの頃、気になる患者が増えたんだ。」
それで龍一に連絡した、という。
話を聞いて、一通り病棟を見て回った。開放病棟が主だが、隔離病棟が増設されている。
「変な患者が増えたんだ。
もともと港町で薬物中毒患者は多かったんだが、
この頃、間に合わなくて、受診してもあっという間に息を引き取る。
原因を探って、ナロキソンが効果がある事がわかった。」
「もしかしてオピオイド系か?」
「そう、さすが龍一だ。
以前よりずっと強力な薬。フェン○ニルだ。」
龍一は驚いた。貴也はさっぱりわからない。
「日本に入って来てるのか?」
「ああ、今の所、患者は華僑か華人だ。
それも入船したばかりの中国系の船乗りたちだ。」
もうかなりの死亡例があるという。
「警察はもちろん、厚生省も保健所も出て来て大騒ぎだ。外務省からも人が来た。」
龍一はアメリカのケンジントンを思い出した。
ニュース映像だ。ゾンビタウン。
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