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第140話 海浜病院 2

 数人の患者が死なずに済んだ病室を見て回った。白衣を着て医者の顔の龍一が、颯爽としてカッコいい。貴也は不謹慎にそんな事を思った。 「佐波、どう思う? これはかなり危機的状況だよな。」  一命を取り留めた患者の様子を見ても、助かった、という気はしない。廃人だ。  みんな体を二つ折りにして下を向いている。真っ直ぐに立てないようだ。 「死を免れた人も正気には戻らない。 生死を分けるのは、摂取した分量のようだ。 オーバードーズが怖いんだが、手に入る薬がどのような形なのか、本体を見た事がないんだ。  医療用のものはあるけど、終末期にしか使えないのはモルヒネと同じだ。  広まっているのは、それを何かに混ぜたものらしい。」  龍一がネットを検索した、アメリカのケンジントンは恐ろしい事になっていた。  みんなゾンビのように下を向いてふらついている。道には注射器がたくさん落ちている。 「それがついに日本に、入ってきたんだ。」  貴也も龍一もそこで気付いた。ケンの彼、李星輝なら何か知ってるだろうと。 「ケンから聞いてもらおうか?」 「李にアポイントを取ってもらおう。一刻も早く。」 「ああ、致死量が極端に少ない。ほんの僅かで 死ぬ薬だ。早くしないと犠牲者が増える。」 「大介、心当たりに聞いてみるよ。」 「ああ、私も思い当たる患者がいる。 この前オーバードーズで亡くなった女性のおにいさんがいる。」  奇しくも同じ人間のことを言っている。 赤ドラゴンの李星輝。全てが彼を指している。 「李星輝ってそんなヤバい奴だったの? ケンの彼氏だよね。」  龍一が頭を撫でてくれた。 「妹さんが亡くなったって? この薬の事を前から知ってたのか?」 「ケンが心配だ。虎ニと同級生だったよな。」  一方、李星輝も心当たりを探っていた。 「赤、はあらゆるヤクを御法度にしたから。 ヤクに手を出すと埠頭に浮くことになるよ。」  組織から外れている華人たちに聞いて回った。 聞くと言うか、ほとんど脅しだった。  華人とは、日本に帰化した中国人だ。華僑は国を捨てない。それにも長い歴史があり、それぞれの事情がある。  中に何か知ってるような男がいた。 「この前から、やけに羽振りのいい連中がいるよ。変なアンプルとポンプを持っていて高く売りつけているよ。見たことない奴らだ。」  その男も怯えている。危険なものだとわかっているのだろう。

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