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第141話 危険ドラッグ

 ケンが血相を変えて帰って来た。 撮影が一段落してジェニファー達と雑談をしていた。危険ドラッグの噂を聞いて李星輝の置かれている立場を悟ったケンは居ても立っても居られず、シオンにコルベットで送ってもらって,赤ドラゴンのアジトに帰って来た。 「李はどこ?」 呉白日が出て来て 「出かけてるよ。梁大人の仕事だ。 ケンも撮影だったんじゃないのか?」  肩でハアハアと息をするケンを宥めて聞いた。 「うん、怖い話を聞いたんだ。 白日は知ってるの?違法薬物の事。」  白日は気まずい顔をした。中国人の犯罪を日本人に知られたくはない。 「ねえ、李に連絡して。早く帰るように。」  違法薬物をコンテナから盗み出した連中は、大体わかっていた。数多あるコンテナから、なぜすぐ使える物が入っているコンテナを盗み出せたのか?内部に手引きした者がいるだろう。  身内の不始末だから、内密に処理したかった。 梁大人が、今まで合法で受けていた輸出の仕事。  日本で仕事をするからには、日本人に酷い事はしない、と言うのが梁大人のビジネスのやり方だった。  日本人とも信頼関係が出来ていた。日本に住んで数十年。  世界中で活躍する華僑には、そういう不文律があった。故国にプライドを持つ。そうやってコミュニティを築いてきた。それが今崩れている。 「大きな声では言えないが、故国も三千年の歴史、とかは吹っ飛んでしまった。政治的な偏りだ。国でこれを言うとスパイとされて、死刑だ。」  言いたいことも言えない国になってしまった。 「あのコンテナは、知らない内に持ち込まれた。 違法な物が入っているとは思わなかった。」 こんな話をしていた梁の行方がわからない。港の華僑のケツモチをしているM会に話を通した。 「マズい事になったよ。 ずっと梁宋とは、いい関係だったのに。 残念だ。」 「何言ってんだよ。」 「あの国の党員という人が、梁宋を連れて行ったよ。それから、嗅ぎ回ってる半グレが目障りだ、とも言ってたな。」  M会の会長代行を呼んでくれ、と言ったが軽くあしらわれた。 「代行はお忙しいんだよ。 おまえらみたいなチンピラと話す時間はない。」  梁大人を探しに行った呉白日と仲間達が、相手にされず帰って来た。 「ケツモチがあんな態度で及び腰だ。 なんか、あるな。李星輝は大丈夫か?」 「余程、マズいライオンを起こしたな。」 「党が出て来たら無事には済まないだろう。 奴らは人の死なんか簡単に考えている。」 「人口の多い国だからな。」  ケンが真っ青な顔をして 「李は?李はどこ?」 何か恐ろしい事になっているのか。 「眠っている獅子を起こした奴がいる。」

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