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第142話 違法ドラッグ
ケンは虎ニに泣きついた。李がもう三日も帰らない。あの日、撮影現場に送って来て以来、李に会えていない。ケンの胸騒ぎは、現実になりそうだった。
「虎!李がいなくなった。」
今までのいきさつを聞いた虎ニは、若松に相談した。佐波一家の情報網を駆使して探す事になった。広域指定暴力団の名は伊達じゃない。その情報網は文字通り広域だった。
しばらくして子飼いの組員が数名帰って来た。
「港の華僑がざわついてますぜ。」
李の赤ドラゴンも殺気立っているという。
「ケンはここにいろ。港のはヤバい。」
「それでも、李が帰って来るかもしれないから、アジトで待つよ。」
危ないからよせ、という虎ニの声を聞かずに、ケンは帰って行った。
「情報が入ったら連絡するよ。」
虎ニは心配だった。
舎弟頭の虎ニにも慕ってくれる若いもんが複数いる。
「ケンになんかあったら、打っ込むから覚悟してくれ。華僑とはケンカしたくないけど、な。」
今まで梁は友好的だった。ケツモチのM会と佐波一家も波風は立っていない。
シマを分けてお互いに不可侵だった。
呉白日が深刻な顔をして中国人のことを言った。
「奴らは何でも平気でやる。殺しも、だ。
ケンさん覚悟してくだせぇ。」
「何言ってんだよ、白日。」
「元気で帰ってくるよ。傷一つつけさせない。」
虎ニから連絡が来た。
「なんかいつも付き合いのある華僑じゃない。
へんな輩がたくさん入って来てる。
言葉は中国人だ。」
虎ニの報告は、違法薬物が港中で売り捌かれている、というものだった。
「へんな名前で、いろいろ不純物で量を増して、名前もいろいろだ。かなりヤバい。」
ケタペン、とかエトミデートとかクロコダイルとか、それぞれ違う薬物が主で、合成だ。
混ぜて売るから安価で手に入る。その毒性と依存性は、ものすごいものだ。
電子タバコのように吸えるから、罪悪感が少なくて,学生にも、蔓延しそうだ、という。
梁大人はそれを知って阻止しようとしたらしい。
かの国では、「邪魔者は消せ」という考えがある。
「アメリカみたいに死人が累々となるぞ。」
佐波大門も立ち上がった。
「極道がこの国守らんでどうする。」
神棚に手を合わせると、鬼神丸を持ち上げた。
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