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第144話 軍歌
「媚中日本人出て行け。
売国の輩、恥を知れ!」
装甲車で軍歌に合わせてアナウンスする特攻服の若者たち。旭日旗が翻る。
警察が鼻白んで、出番を失った。
「港湾警察だ。ここは集会禁止区域だ。
ただちに解散しなさい。」
警察の呼びかけに
『大日本倭塾』(ヤマトジュク)の看板を付けた装甲車から若者がズラッと降りて来た。
全員、腕を後ろに組んで胸を張って「海ゆかば」を歌い始めた。
「うーみゆーかばー
みずーくかーばねー」
思わず見惚れる統制の取れた若者たち。
「解散しなさい。港湾警察です。
解散しなさい。」
歌が終わって若者たちは全員、礼をした。
マイクを持った少し年嵩の男が
「中国に媚びる日本人を糾弾する。
我々は長らく日本のために働いてくれた中国人を排除する事はない。
金儲けのために密輸に手を貸す日本人、そして食い物にしようと入国するシナ人、を即刻排除する。武力を行使する事も厭わない。
我々は武装している。
我々の仲間を拉致した疑いがある。この港湾施設事務所を今から捜索する。
抵抗するものは、犯罪者とみなし密入国者として警察に引き渡す。」
「右翼団体とはなぁ。
凶器準備集合罪じゃないのか。」
「課長、今、連絡が入って来ました。
彼らはデモ集会の許可を取っています。
なんとこの集まりは合法です。今日のガサ入れが漏れていたようです。」
「なんだって?」
警察も形無しだった。
『大日本倭塾』のメンバーがビルを捜索すると言っている。
それは警察の仕事だ、と焦って警察官がバラバラとビルに入って行った。
後ろで黒塗りのデカいバン数台に乗り合わせた佐波一家の組員がながめている。こちらも武装している。
「若松、おまえの古巣だな。やられたよ。」
「いやぁ、ドンパチやらなくて良かったです。
銃刀法違反でパクられる。」
「海ゆかば、には泣けたな。
戦争は知らないんだが、胸が熱くなる。」
中にいるはずの梁と李は無事だろうか?
赤ドラゴンの仲間たちも固唾を飲んでみている
虎ニは、もう死ぬ覚悟でここに来たのだが、肩透かしだった。
軍歌が心を動かした。。
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