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第147話 脱出

 李は何とか脱出方法を考えた。空き家が多いから、こんな事に使われていても、誰も探さないだろう。 「でも、俺はここで生まれ育った。ガキの頃から野山を駆け巡り、知らない所はないと思う。  地形は頭に入っている。抜け出せば何とかなるだろう。」 (一日に1回、あのクッキーと水、そして少しの果物を持ってくる男がいる。チャンスはその時だ。)  梁にも話した。 「気をつけろ。敵は何か武器を持ってるぞ。 銃か、ナイフか。」  その男はフェン○ニルの入った注射器を護身用に持っていた。あのパッケージされた販売促進用の一回分。オーバードーズで死なない程度の分量が入ったお試し用のあれだ。  翌日、食事を持って男が現れた。手に注射器を持っている。致死量は入ってないが突き刺せばすぐに効く。鎮痛剤だから、脱力してすぐにハイになる。  無防備な男だった。それだけ薬の効き目を信じているのだろう。 「油断が過ぎるぞ。こっちは二人なんだ。」 あきれた。力の弱い老人と侮っていたか?  男を突き倒して背中を足で抑え込んだ。手に持った注射器が李の腕を掠めて梁に刺さった。  慌てて取り上げたが少量、身体に入ったようだ。掠めた腕にも少し薬剤が染みてきた。  吸い込んで死んだ者もいると聞いたことがある。 「ああ、梁大人、大丈夫か。」  力が入らない。注射器を持っていた男は、拳で気絶させた。梁大人を担いで部屋を出る。 「ここは森の中だ。港から車で10分くらい走ったな。森の中?もしかして俺のアジトと近いんじゃないか?」  ツイている。よく知ってる森だった。ガキの頃から見慣れた二本杉。  梁を担いで走った。ふらつく身体と裏腹に、すごい多幸感で空を飛ぶようだ。 「ああ、俺は何でも出来る!」  この全能感はなんだ? 思わぬ力が出た。 「バタンッ!」  通路を蹴ってアジトのドアの中に李が倒れ込んできた。肩に梁大人を担いで。 「医者だ。医者を呼んでくれ! 何か解毒剤を、梁大人に、早く!」 「李だ!李が帰ってきたぞ。 みんな港病院の大介先生を呼んで来い!」  車を飛ばして大介先生が来た。早速、解毒剤ナロキソンの注射をした。    ケンが泣きながら李に縋りついた。 「李、生きてた。」 「当たり前だ!すごく眠いんだ。」  ケンの腕の中で眠ってしまった。 「先生、李は死なないよね?」

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