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第149話 拉致の違和感

 李はすごい食欲で呉白日の用意した食事を平らげた。 「ふう、やっと飯らしい飯にありつけた。」 「よく生きて帰って来れたな。」  呉白日の言葉に、拉致までのいきさつを話した。いきなり顔に袋を被せられて、数人の男たちに縛り上げられ車に放り込まれた。梁大人も黒い袋を被せられ縛られていた。 「気がつけばあの空き家に放り込まれていた。」 「あぶねぇな。もう一人で歩くなよ。 腕っぷしの立つのを用心棒に付けるか?」 「腕なら自信があったんだがなぁ。 頭数が多かったから、あっという間だった。  俺、腑に落ちないことがある。」  李の腑に落ちないのは、今回の拉致の甘さ、だった。早々に戒めの縄も解かれて、食事も与えられた。殺す気ならすぐにでも実行できたはず。  死人に口無し、だ。 「俺も変だと思った。まるで港のコンテナが怪しいとみんなに知らせたいような、感じだ。」 「梁大人も、拉致ったのは、単なる脅しだったのか?」 「これは何か故国の陰謀と、それに対する反対勢力の仕業にも思える。」 「内部分裂、か?」 「一枚岩じゃないって事だ。」  確かに絶望的な麻薬が入ってきている。 医療用とは違う、安価でつくれる不純な薬だった。何にでも混ぜられる。無味無臭。少量ですごい効果。コスパがいい。合成が簡単。 「死ぬようなヤクにコスパもないもんだぜ。」 「メキシコあたりじゃ、その辺の小屋でも簡単に作れるらしい。」  李は故国が何を考えているのか、理解不能だった。 「やたら、眠くなる。醒めるのは早いが、しばらく脱力感で何も手につかない。」 「まずは、情報収集だな。 今夜はゆっくり寝ろ。」  早々に寝室に引き上げた。 愛するケンを抱いて眠る。 「ケン、来いよ。」  男っぽく呼ばれて、ケンはまた身体が疼くのを感じた。  ベッドに腰掛けて熱いくちづけを交わした。 李の手で顔を覆われて口を吸われる。  一人の時は寂しくて切なくて膝を抱いて、中々眠れなかった。  今はその手が身体中、愛撫してくれる。 「ケンの身体は芸術だ。素晴らしい引き締まった筋肉。」  李の身体もすごい。筋肉が一つ一つパンプアップして堪らなくセクシーだ。ケンに覆い被さって身体中、舌が這う。 「ヤダ。恥ずかしい。」 「俺に恥ずかしい所なんて無いだろ。」  爪先から舌が這い上がって来る。 「そんな所、舐めたらダメ。」 「全部、俺の,だろ。」

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