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第152話 船乗り
逃げて来た船乗りの男の話を聞いた。迫害された民だという。
それでも党に逆らったら生きていけない。
身分を偽って逃げて来た、という。
「ひでぇな。同胞だろ。」
「中国はウイグルを蹂躙し続けている。
チベットもそうだ。」
「事が大きくなったな。
おまえ名前はなんていうんだ?」
「アルプ。アルプ・ハサン。
ハサンはお父さんの名前。子供が受け継ぐ。」
「中国人に見つからないか?
顔がトルコ系じゃねぇ?」
「船乗りだから、何とか入り込んだ。
党の規制が厳しいけど、船に乗れるし、言葉も出来るから。」
国ではウイグルの迫害が続いていると言う。
「ああ、俺もネットで見た事があるよ。
ひでぇな、中国は。」
でも船乗りとして長いから、本人が言うには、信用されていたらしい。
それでこの国で、出航まで時間があるので与えられた仕事が李たちの見張りだった。
食事に少しの果物があったのは、アルプの心遣いからだった。
「奴らが兄さんたちに酷いことしないか心配だった。」
船の乗組員はほとんどが党員と、アルプのような下働きだった。
「ひどく、人使いが荒くて、仲間が何人も死んでいった。私も勝手な事やったら殺される、思ってた。兄さんたちが逃げた時、オワタ、と覚悟したくらいだ。」
党員は威張っていて待遇もいい。下っ端の船乗りはこきつかわれている。隙あらば逃げ出したい、とみんな話していた。
ヤバい物を運んでるとかで、いつも空気がピリピリしていたそうだ。
「コンテナの中身、知ってるのか?」
「ああ、知ってる。フェン○ニルだ。
小分けされてパッキングされてる。
でも時々見せしめに、粛清だ,と言って、裏切り者の処刑に使われる。」
一本打つとよく効いて夢見心地になる。粛清の時は二本。みんな静かに死んだ、と言った。
「どうして小分けされてるんだ?」
「お試しに、日本の繁華街、賑わってる町にばら撒くため、と言ってた。」
別動隊が人に紛れて、売人になると。
もう、F市や人の集まる所には、ばら撒いている。
「あ、ヤバい奴。安くてすぐに手に入るって
誰か若い奴が言ってたなぁ。」
コンテナには大量に材料が積み込んである。
「ヤバいんです。取り返しがつかない。
いっぱい見て来たんで。」
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