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第153話 解毒剤

 龍一が大介医師に呼ばれて病院に来た。貴也も 一緒だ。 「まずいことになってる。広がってるらしい。 例の麻薬。何か情報が入ってないか?」  この前、華僑のボスのために解毒剤を持って、半グレのアジトに駆け付けた話だった。  幸い梁大人は少量刺さっただけで、何とか一命は取り留めた。半グレのリーダー、李星輝が一緒に拉致られたと聞いた。梁宋はこの地域の華僑のボスだ。そんなに広い範囲を治めてはいない。 「あ、龍一、虎ニが言ってたあの件かな?」 貴也の言葉を、龍一が大介医師に説明した。  F市で蔓延しそうだという。簡単に説明した。 クロードのショーに出ていたラッパーが死んだ。 「ああ、その件だな。私も聞いてるよ。 これ持ってて。」  噴射式の点鼻薬のパックを寄越した。 「一回分ずつ、使い捨ての点鼻薬だ。」 「ナロキソンか?」 「そうだ、いくつか持っていけ。 これから必ず必要になる。たくさん用意したから必要な所に配ってくれ。 私より顔が利くだろうから。」  大介医師は龍一の実家の稼業を知っている。 「ああ、そういう事だな。」 「F市で死者が出てるらしい。 クロードが言ってた。」 「ナロキソンは解毒剤だから、命は助かるかもしれないが、後遺症までは救えない。万能薬ではないんだ。廃人になったら救えない。  一度身体の中に薬を入れたら、抜け出すのは至難の業だ。医療用と違って怪しい合成をした麻薬だから。くれぐれも手を出すなよ。」  李の所にも話が入った。ケンにも虎ニから連絡が来た。 「死人が出てるって!」 「このまま、放って置けないな。」 アルプを呼んだ。 「おまえの事、何も言って来ないな。 コンテナの中身を知ってるおまえが生きてちゃまずいんじゃね?」 「そんなぁ。怖い事言うなよ。」 奴らは探してるはずだ。先手を取ることにした。  大介医師からもらった解毒薬。連中は欲しいんじゃないのか? 「あの連中は、そんな薬なら用意してますよ。 あの小分けパックも数千袋、その一割くらい解毒剤も持ってるよ。  セットで試させて日本でも売り捌くんだよ。」  ドカッ! 李がアルプの首を掴んで押さえつけた。 「おまえが持ってんだろあのヤク。」  殴り倒した。アルプも船乗りだけあって腕っぷしが強い。殴り合いになって取っ組み合っている。  赤ドラゴンに常駐している強面の連中が駆け付けてきた。 「眺めてないで止めてよ。」  ケンが叫ぶと 「面白え。いい勝負だ。奴も中々やるねぇ。 ま、李が仕留めるから、見てな。」  みんな笑って見ている。

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