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第154話 アルプ・ハサン
とうとう組み伏せた。殴られてアルプの顔は別人だ。李にボコボコにされた。
「ひでぇな、李、少しは手加減してやれよ。」
「おまえがスパイだと気付かないとでも思ったか? 舐められたもんだ。」
アルプはもう戦意喪失だった。
「私、国ではブフ(モンゴル相撲)のチャンピオンだったよ。李さん強すぎる。」
「おまえがここにいるのに誰も何も言って来ない。怪し過ぎるだろ。俺たちが逃げたのに、よ。」
李は誰か仕掛けてくると待ち構えていた。
「梁大人を拉致ったんだ。敵も命懸けで来るのが当たり前だ、と思っていた。」
港の積荷は外交問題になる案件だ。まして誰かが裏切って日本で売り捌こうとしている。国に帰れば死刑になるだろう。
「誰が噛んでんだ?」
裏で糸を引いてる奴がいるはずだ。
「上手の手から水が漏れる。
日本のことわざです。バックに誰かいますね。」
呉白日が改まった様子で言った。
アルプを締め上げた。気のいい奴だと気を許していた。ウイグル族の弾圧に同情していた。
(俺はまだまだ甘いな。)
ケンが李の傷だらけの拳を手当てしている。
「李はケンカの時、あんな顔するんだね。」
ケンを抱き寄せて
「怖がらせたか?裏切られるのが一番嫌いなんだ。」
優しくくちづけしてくれた。
「もう、コンテナの中身がヤクだってわかってるんだな。」
「まだ、材料だ。もうひと手間必要だ。
横取りしたって使えねぇ。」
「コンテナいっぱいのすぐ使える錠剤を見たぞ。
瓶にぎっしりだ。あれで何人分だよ。」
「小さい国ならふっとぶ、な。」
呉白日が李の顔を見た。
「おまえは当たり、付いてんだろ。
言ってみなよ。」
「ケツモチのM会だな。」
少量で死に至る恐ろしい麻薬を、金になるからと言って売り捌くのは、許せない。
憤っていた。
「なんか、極道だけで出来ることじゃねぇ。
裏で繋がっている役人がいるな。」
「役人どころか政治家だよ。」
「半グレじゃ手に負えないんじゃね?」
「ああ、そうだな、そうかもな!」
どこから手を付けたらいいのか、あまりにも巨大な敵におじけ付く。
「命のやり取りじゃねえ。
人の命はそんなに軽いもんじゃねえ。」
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