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第155話 警察
アルプを警察に引き渡した。コンテナの中国人。おそらく党員、はアルプを始末しに来るだろう。警察が一番安全だと思った。
「え?不起訴だって⁈」
アルプが拉致ったことは裁判も無しに不起訴になった。
留置所がアルプには一番安全だと思った李の思惑は外れた。パスポートはコンテナの船主に預けてあるといっていた。なぜか警察は船を改めようとしないでアルプを放免した。
「船には戻れない。私をここに置いてください。」
必死に頼むアルプが赤ドラゴンの仲間に入った。
寄せ集めの半グレ集団だ。いろんな国の人がいてもいい。アルプはいち早く仲間に溶け込んだ。
彼なりの処世術だったろう。
ケンと李のカップルにアルプは驚いている。
「中国は同性愛は犯罪なんだ。
それに私はイスラム教だから、やっぱり、神に背くんだよ。」
それでも多様性だ。本人が良ければいいんだ、と無理やり納得していた。ここで生きていくためだ。
「アルプは家族はいないの?奥さんは?」
「いないよ。そんな余裕は無かったから。
ウイグルは今、中国人の暴力の捌け口になっている。見つかると殴る蹴るの暴力を受ける。
子供だって容赦しない。道端で頭を抱えて倒れている子供を、それでも何度も蹴っているやつを見た。私は中国人が嫌いだ。」
「そんなことを言っていいの?」
「党の人たちが怖いんだ。恐怖政治だよ。
小銭を稼いでる富裕層が増えて、知性も教養もない。町は汚いし、ウイグル族なら絶対やらないようなことをやる。」
「アルプは鬱憤が溜まってるんだね。」
「そう、それで奴らを困らせようとしたら、逆にリンチを受けた。」
李も、タコ殴りした事が気まずい。
「おまえ一人じゃ無理だよ。
あの国はどデカい。人口も多い。
コミュニズムで縛られてる。
政治や宗教は一番厄介だ。」
李はケンの肩を抱いて優しい気持ちが溢れてくる。
「羨ましいな。男とか関係ないね。
私もパートナーが欲しいよ。」
アルプの理想は呉白日の家族だった。
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