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第156話 李の仕事
覚醒剤に手を染めて、いい稼ぎだった以前の赤ドラゴン。今は中古車の輸出に絞って仕事をしている。死ぬ思いをして離脱した李と仲間たち。
カンカン。乾いた音がヤードに響く。
中古車のエンジンルームに顔を突っ込んで真っ黒になって使える部品を外す。
どんなボロ車でも、使える部品は取っておく。まだ、程度のいい車は、徹底的に直す。李は整備士の資格を取得している。
自転車もそうだ。日本は自転車が余っている。乗り捨てられたのか、新しい自転車が落ちている。一応、遺失物なので集められた場所で取引して買い取る。主に行政が相手だ。
「捨てられた自転車を俺たちが再利用するのに金を取るんだからな。
おまえたちが直して販売すればいいじゃねえか。お上のやる事はがめついな。
粗大ゴミじゃねぇか。」
文句を言いながらも、真面目に働く。
車の下から顔を出した李がカッコいい。
「お茶持って来たよ。休憩して。」
ケンは、李が真っ黒になって働いているのが好きだ。工業用石鹸で手を洗っている。荒れて真っ黒になった李の手。
顎を持ってくちづけされる。
「オイルの黒いのが落ちねぇ。
ケンの可愛い顔を触るのがツラいな。」
首に抱きついて
「李、カッコいいよ。大好き!」
本当はこんな穏やかな時間を過ごしている場合じゃ無かった。
ジワジワとあの薬が広がっていた。
F市では、安く手に入る、とジャンキーが集まってくる。
「なんで取り締まらねぇんだよ!」
M会がバックにいるようだ。港町にゾンビが増えた。
県内にも広がって来ている。佐波一家のシマウチでも見かけるようになったゾンビ。
「放っておけないですぜ。」
若頭の柳生さんが苦い顔をして言った。
「近頃、羽振りがいいのは港湾の議員ですよ。
あの廃ビルを返せってうるさいんで。」
佐波大門に売りつけた廃ビルが何の価値があるのか、返せとうるさい。
あの合田一太の父親だ。市長にゴマを擦り、市民からは蛇蝎の如く嫌われていた。
要領がいいのか、なぜか再選される。
「あの議員がヤクの噂をもみ消してるんだ。
あの息子が市議会に出るらしいよ。
与党の応援で、あの裏金まみれの奴ら。
外務大臣がこの町を気に入ってるんだって。」
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