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第158話 ホスト
「ハードルが低いからヤバいんだよ。値段も安いんだろ。」
注射器で針を刺すのは抵抗があるが、電子タバコなら気軽に手を出す。液体になった物をタバコに染み込ませて吸わせる。
適量なら、多幸感がすごい。問題はその摂取する量だ。わずかでも、死に至る。そのために混ぜ物をたくさん入れて薬を作る。酷いのは混ぜるのがコカインだったりするのだ。
「シンが目を覚ましました。
また、ぼーっとしてるみたい。」
同僚の蓮が心配そうに見ている。
「なんかお客さんからもらったんだ。
俺、タバコ吸わないって言うのに、
いいから、いいから、って無理に一服して気絶した。」
その客は逃げたそうだ。中国人の女。イチゲンだった。
「すごい高いシャンパンを卸してくれたから、断れなかった。」
龍一がシンの手を取って脈を診ている。
「先生、お医者さん?すごいイケメン。」
蓮も驚いた顔をして二度見している。
「その時、どんな感じだったか教えて。
この薬の事はよくわかってないんだ。」
龍一の診察に素直に答える。
「すごく気持ちよかった。ここは天国?って思った。いつもの店の中が、パラダイスだった。
みんな愛してるよ!って感じ。」
「薬がきれてきたらフラッシュバックがあるかもしれない。そのタバコはどうした?」
あの客が鷲掴みにして持って行った。でも、俺
とっさにタバコの箱だけ掴んでポケットに捩じ込んだんだ。」
蓮がそう言って潰れた箱を差し出した。電子タバコの本体はない。
「やったな。これで分析が出来る。」
海浜病院に持って行くつもりだ。
「帰れるか?」
シンは回復したようだ。ナロキソンの点鼻薬が効いている。蓮は吸わなかったのか、二人とも元気に帰って行った。
「ふうっ、龍一大変だね。お医者さん、カッコいいよ。」
「ああ、佐波一家が野戦病院になる日も近いな。
貴也、ナースのコスプレ、似合いそうだな。
今度買ってこよう。」
「龍一の趣味? やだなぁ。」
虎ニが遠慮がちにノックした。
「診察室になったね。この部屋。」
若松も一緒だった。
「あのヤク、出回ってますね。撒いてるやつを締め上げたんですけど、中国人でした。」
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