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第162話 華僑・華人

 梁大人は、子供の頃、親と一緒に日本に来た。代々華僑だった。東南アジアを点々として、日本に来た。父親は苦力で、港で沖仲仕の仕事をした。 母親は中華街の料理人だった。親の代の華僑は、料理人か、仕立て屋、理容師になる者が多かった。両親は働き詰めに働いて梁宋を育ててくれた。  老華僑と言われる親世代は、異国で厳しい生活を耐えてきた。日本人に溶け込んで、長い間には認められて永住権を持てるようになった。帰化するものは華人と呼ばれた。国籍を変えないものは華僑と名乗った。いずれも故国を思って,強い絆があった。  仲間を大切にする。華僑には「幇(ぱん)」と呼ばれる二つのコミュニティがある。  故郷を同じくする「郷幇」と仕事を同じくする「業幇」だ。同じように結束が固く、働き者だった。そうやって力を合わせて生きて来た。  李星輝の父親、李恩大も苦力だった。荒っぽい性格で、母は李を産んですぐ出て行った。  女に手が早く、従姉妹の涼鈴も誰の子がわからなかった。従姉妹ではなく、もしかして同じ父を持つのでは?と李はいつも不安だった。  沖仲仕としては、頼りになる男だったから、慕う仲間がたくさんいた。赤ドラゴンの元になる仲間だ。 「李の父親は、働き者で力自慢だった。李を可愛がっていたよ。  心配するな、涼鈴(スーリン)は李の妹ではないよ。」  李は半グレになって覚醒剤に溺れた過去がある。今のドラゴンは麻薬御法度の厳しい掟が出来ている。死ぬ思いで離脱療法を受けたのだ。  目を離した隙にフェン○ニルに手を出して死んでしまった涼鈴。  先祖や父親、梁大人が築き上げてきた日本での信頼関係に、今、ヒビが入ろうとしていた。  港を守って貿易をスムーズにやってきたのに、ここでおかしな事になっている。 「1970年以降、華僑は、新華人と呼ばれるようになって、働き者だけの老華僑とは違って来た。  つつましく自由に生きて来た者たちが、高学歴、知識労働者が増えた事で企業が著しく成長した。今や、中国は世界の「下請け工場」ではない。大きな経済を動かす「世界のマーケット」なのだ。    そうやって梁宋は日本での信頼を積み重ねて来たのだ。  ここに来て中国からの怪しいコンテナだ。 拝金主義、資本主義を利用する輩の出現。党が絡んでいるのか?口に出せない掟。 「みんな金の匂いに群がってくる。  せっかく日本で真面目に働いて来た同胞が、白い目で見られている。」  梁大人は親のようなものだった。李のようなヤンチャな半グレにヤードを与え、真っ当な仕事をさせてくれた梁大人の恩に報いたい。

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