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第165話 スクープ
「どうした?疲れたか?」
李が心配そうにケンの肩を抱く。
「龍一先生や貴也の方が疲れてる。
俺は大丈夫。
李も一人で危ないところに行かないで。」
「俺たちに何が出来るのかなぁ。」
李は無力感に苛まれている。
「見たか?あれ。」
木村の持っていたフェン○ニルの充填済みの使い捨て注射パック。一万円で20パックも買えたという。簡単に手に入るからこそ、恐ろしい。
呉白日たちが売人を見つけて締め上げた。後ろにM会がいることはわかった。
李は荒事を考えていた。命がけだ。
(やらなきゃ、やられる。)
白衣の龍一が来た。
「李さん、何かお考えがありそうですね。」
他人の心を見るのが仕事だ。
「いや、別に。
龍一先生、ケンを守りたい。」
あの廃ビルを、しつこく返せと県会議員の合田が言ってくる。
金回りが良くなったのか、折衷案としてビルの改修工事を始めるから、明け渡せという。
プールを徹底的に直して飛び込みに力を入れたいそうだ。
「おかしいな。何を今更。あんなボロビルに固執して何だって言うんだろう?」
いつも怪しい動きを見せる議員だ。
経済新聞が大スクープを出した。
こんな田舎の港町が、麻薬の密輸に関わっていた、と言う見出し。
中国からのコンテナで違法薬物が密輸されていた、という。
「違法薬物じゃない。工業製品に使う物質だ。」
コンテナの荷主はそう言い逃れした。
「日本では、荷解きをしない。そのまま次の目的地に運んでいる。」
それなら、なぜ複数の党員が張り付いているのか。表向きの言い分にしか聞こえない。
そして、一つのコンテナからは勝手に横流ししている者がいる。
表向きは、キチンとした企業の顔をしたM会が
しっかり絡んでいる。
「わざわざ、別枠でパッケージされたお試し品を積んでいるのはどう言うことだ?」
複数の政治家が関わっているらしい。
新聞社のスクープはいつの間にか揉み消された。今は、現実に公園などで売られている。
最初は安く分けてくれる。依存性が強いから、だんだん値段を釣り上げる。ヤクザのやり方だ。
警察当局は、一切の報道管制を敷いた。
「汚ねぇんだよ。
実際にジャンキーが増えて、
死者まで出ているのに。」
梁大人の港のビジネスが凍結された。李たちの中古車の輸出も出来なくなった。
「日本の法律に違反している。」
警察の立ち入り検査が始まった。
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