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第170話 佐波一家
「ここは病院じゃないよ。
設備だって足りない。」
佐波一家の屋敷は広いのと医者の龍一がいる事で、保健所から臨時の診療所にされている。
忙しさに貴也が悲鳴をあげる。
「貴也、疲れてるね。交代するから、龍一と休んでいいよ。」
虎ニが言ってくれた。今は患者もいない。公園から来た軽いやつを保護してナロキソンの点鼻薬を渡す。ここで出来るのはそれだけだ。
重症患者は海浜病院に送るように救急に指示を出す。向こうはいち早く医療体制が出来ている。
F市の病院は慣れない患者に右往左往したが、
龍一のナロキソンの処方で落ち着いた。
もう救急隊員は全員ナロキソンを携帯している。
「こんにちは。どう、ジャンキーは増えてる?」
涅槃寂静の山崎さんが、顔中ピアスを光らせて顔を出した。
「ジュネさんは気の毒でした。
ナロキソンを持っていれば。」
「それでも、F市は落ち着いて来ました。
ありがとうございます。」
「まだまだ、都心の方ではこれから流行りそうだ、と警戒してますね。」
遊び仲間から聞いたという。
「クロードのショーに出るラッパーも減ってしまって。」
「なんで警察は、事前に動かないんですかね。
箝口令が敷かれてますよ。」
それは龍一たちも感じていた。
「売人を逮捕して元から断つんでなければ、解決しない。」
「なんか議員が絡んでいて、私たちでは手に負えない。嫌な感じです。」
涅槃寂静の山崎さんたち一行も、なすすべなく帰って行った。
自分たちの私室に引き上げた貴也と龍一は、久しぶりに爆睡した。ずっと不眠不休で対応していたのだ。こんな事はヤクザの自宅でなく、行政の施設を開放するべきだ、と身内が憤っている。
「ヤクザに丸投げ、とは、な。世も末だ。」
組長の大門も呆れている。
「港では、ずっと収めて来た華僑の梁大人が、酷い事になっているらしい。
ウチも黙ってられねぇな。」
「今まで梁大人が上手く平和に収めて来たのに。」
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