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第172話 梁の帰還

「なんか近いな。 今日のケンはやたらくっついて来るね。」  李の腕に絡んで歩きにくい。 「李の身体、すごいね。筋肉がポコポコしてる。 お腹も割れてて。」 「肉体労働者だからな。ケンは引き締まってスレンダーだな。でも、力強い。跳ね返して来る。」  朝から二人でイチャイチャしている。 「仲良しだなぁ。 ウチの奥さんにも真似してみようかな。」 「うんうん、女の人はそういうのきっと好きだよ。また、子供増えちゃうね。」 「おいおい、そんなわけないだろ。」  呉白日が呆れている。もう、一児の父だ。 「そろそろ車の解体、再開しようと思ってるんだ。いつでも出荷出来るように。海外に、ニーズはあるんだ。」  港には相変わらず中身の不明なコンテナが出たり入ったりしている。 「梁大人が帰ってくれば、また、活気が戻るよ。」   あれ以来、港には武装した党員らしき中国人がいつも詰めていて不穏な空気だ。  「梁大人が帰って来たぞ!」 みんなが港に駆け付けた。梁宋はボロボロになって日本へ帰って来た。 「もう、お年だから、気をつけてやれ。」  党員らしき人がそう言って梁大人を船から降ろした。 「大人、ご無事で。国へ帰ってたんですか?」  李たちが車に乗せて大人の家に行った。家は荒らされて住める状態じゃなかった。  調度品や金目のものは略奪されていた。 「ここはゆっくり修復する事にして、とりあえず俺たちのアジトに来ていただきます。」  帰って来た梁大人は無惨な事になっていた。左手の指が三本しか残っていない。  李はそれを見て震えるほど悔しがった。 「船で、故国へ連れて行かれた。」 裁判のような事で有罪にされて、死刑判決を受けた。そこに何か横槍が入って、指は失ったが、いきなり無罪、釈放された、という。 「死刑から無罪?」 「どちらも身に覚えのない事だ。」  噂には聞いていたが、祖国はもう酷い監視社会だという。告げ口で投獄されて碌な裁判もなく、死刑、というのも多いらしい。恐怖政治だ。 「どうなってるんだ?」  華僑の『業幇』が助けてくれたそうだ。同じ、仕事繋がり、また、港を仕切る許可が出た。  今後いっさいコンテナの荷物には手を出さない、と誓わされた。だが、党員の監視付きだった。事あるごとに報告しなければならなくなった。  今まで通りビジネスは許す、と言われた。 「コンテナに気になる事があっても、一切関わらない、と指2本と血判状を取られたという。  血の誓い。中国の掟、だった。 「そんな約束で帰って来れたんだよ。」 梁宋の髪が真っ白だった。

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