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第2話

 俺は、今は無職。  少し前までは、母方の叔父さんが経営してる税理士事務所で税理士として働いていた。  大学在学中から、卒業したらうちで働かないか、と誘いを受けてて、税金なんてどうでもよかったけど、まぁ、将来的にも考えて悪い話しじゃないしと、最初は見習いで働くことになった。  元々真面目な性格の俺は、叔父さんに色々教えてもらいながら働いて三年過ぎた頃、税理士になる資格試験を受けて、見事一発合格。  で、晴れて税理士デビュー。叔父さんの顧客を担当させて貰えるようになったし、いつも行ってる商店街のお好み焼き屋のおばちゃんからもご新規さんを紹介もしてもらった。  そんなわけで、順風満帆かと思われた俺の税理士人生に暗雲が…。  叔父さんの太田税理士事務所は、叔父さん一人の個人事務所で、雑務はその叔父の妻、叔母さんが担当してる。で、子供は既に社会人の一人娘。  娘は税理士なんて地味な仕事と言って見向きもしなかったらしい。で、俺に話しがきたわけだ。  ある日、俺は聞いてしまった。太田夫婦の話しを。 「もう…お父さんどうすんのよ。圭ちゃんにこの事務所取られたら」 「何を言ってるんだお前は。お前だって賛成したじゃないか。圭ちゃんが卒業したらここを手伝ってもらうことに」 「でも、こんなにすぐ資格もとって、最近じゃ圭ちゃんに担当して欲しいってやって来るお客さんもいてるじゃないの…本当は葉子に継いでほしかったけど、嫌だって言うし…税理士とお見合いでもさせようと思って、あちこちにお願いしてるのよ」 「お前は、また勝手にそんなこと」 「だって、お父さんは自分が引退した後のこと考えてんの?圭ちゃんが私たちの面倒なんてみてくれるわけないでしょう」  そう、俺は太田家の御家騒動に巻き込まれる前に、太田税理士事務所を辞めた。

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