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第6話

「うわぁ。なんかカフェに入ったみたい。いい香り」  そりゃ、どうも。  おばちゃんの甥もコーヒーが好きなのか、俺の自分でもよくわからない誘いに、いいんですか?と嬉しそうな顔をして、部屋に入った。 「なんか、すいません。初対面なのに図々しく上がりこんじゃって」  いやいや、誘ったのはこっちだから。 「ううん…コーヒー好きそうだったし」 「俺、酒もタバコもしないから、コーヒーが唯一ホッとさせてくれるものっていうか」  一緒じゃん!甥っ子君。 「俺も同じ」  嬉しくて思わず言ってしまった。 「そっちの部屋、どこでも座って」  三畳くらいの台所とその奥に六畳の和室の二間のみ。で、座卓を部屋の真ん中に移動させた。 「ミルクとかお砂糖は?」 「ブラックでお願いします」  そりゃ、そうだよな。  俺は白い厚みのある陶器のカップにコーヒーを入れて、甥っ子君の前に置いた。  ありがとうございます、とニッコリした顔をじっくり見ると、右頬がなんか腫れてるような… 「頬、腫れてる?」 「まだ、わかります?親知らず抜いたら腫れてしまって」  そうか、それで昨夜はフェラができなかったんだな。ごめん、勝手に想像してます。 「痛むの?」 「いやもう、ほとんど痛みも無いです…だからようやくコーヒーも美味しく感じられるようになってきたから…誘ってもらって本当嬉しいです」  ふぅふぅしながら飲む様子は、同年代の俺にはない可愛いらしさがある。とはいえ、昨夜、やってたんだよな。あん…そこ…って言いながらさ。 あの色っぽい声と目の前でコーヒーを美味しいって言う声が同じ人物のものとは思えない。けど、もう一人の男の方とは声の質が違うから、間違いなく、フェラ男は君だよな。  すると、甥っ子君は急に気付いたように、カップを座卓に置いた。 「すいません。遅れました、俺、榎本…フミっていいます。マサエおばちゃんの妹の子供です」  突然の自己紹介。俺も慌てて名前を言う。 「あっ、俺は、藤澤圭太です」  座卓を挟んで暫しの間。目が合ってお互い笑った。何の笑いだ? 「フミって何か女の子みたいな名前でしょ」 「そうかな…どんな字?」  「芙蓉の花の芙に、事実の実で芙実。おばちゃんはいつも芙実ちゃん芙実ちゃんって言うから、芙実君にしてって言ってるんですけどね」  そういえば、おばちゃんが 芙実ちゃん、って言ってるの聞いたことがあったな。たぶん、この甥っ子君に電話してたんだな。

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