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第9話

 芙実君は、見かけによらず、なかなか豪胆な奴らしい。 「えぇ…まさか聞こえてたなんて…俺のエロ声」  まだ、笑ってる。 「ごめんね。次からはもっと静かにやるね」 「あぁ…別にお気遣いなく」  芙実君は、えっ?という顔をした。 「ひょっとして、聞くのが楽しみとか?」  まっ、まさか…っていうか芙実君、急に性格変わってないか? 「ヘッドフォンしたら何も聞こえないから、勉強にも支障ないよ」 「藤澤さん、勉強してんの?何の?…えっ、ひょっとして、浪人生?」  まぁ、世の中には何浪もしている人はいるけど、俺は違う。まだ一回しか落ちてない。 「浪人というのかわからないけど、国家資格取得のため、勉強してんるだよ」 「へぇ…何の国家資格?」 「公認会計士」  芙実君は、公認会計士を知ってるみたいだ。驚いた顔をした。 「えぇ。凄い。超難関資格じゃない」 「まぁね…でも、この間、初めて受験して最初の試験落ちてさ」 「そんなの気にしない気にしない。だって何年もかかってやっと合格してる人ばっかりでしょ?」 「…まぁ、そういう話しも聞くけど」  うん?芙実君に励まされてるぞ、俺。 「あっ…もう行かないと。ハム太もご挨拶して」  芙実君は寝ているハム太の前足をちょこっと動かした。  そして、少し気まずそうな顔をした。 「あの…このことは、おばちゃんには…」   「もちろん、言わないよ」   俺は笑いながらそう言うと、芙実君は、あからさまにホッとしたような顔した。 「じゃあ、また今度、豆買ってくるね」 「口止め料かな」  芙実君は、まぁね、と言っておばちゃんの部屋にハム太を戻して、帰っていった。  謎はかなり解けた。てかほとんど解けた。  まぁ、後、気になるのは相手がどんな奴なんだろうってことくらいで…まぁ、どうでもいいか。

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