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第10話

 金曜日の今日。  俺は朝からなんとなくソワソワしている。  聞こえているとわかったら、芙実君はどうするのだろう。いや、どんな声を出すのか…ってただのスケベ野郎じゃないか。  ダメだダメだ。前回落ちた一次試験の受験日まで後二ヶ月だ。集中するぞ。  の、つもりだった。  夜の十一時を過ぎた。  今日は十時前からヘッドフォンをして机に向かっている。  お隣のドアが閉まった。振動でわかる。俺は不覚にもヘッドフォンを外してしまった。 (なぁ…水) (ちょっと待って…もう飲み過ぎだって。店長に逆らってもどうにもならないでしょ) (うるさいなぁ)  シャーッと蛇口から水を出す音。 (はい) (おう。サンキュー) (ねぇ…そんなのでできんの?) (当たり前だ)  コップをテーブルかどこかに置いた音の後に、ベルトなのかカチャカチャと金属がぶつかる音。ズボンを脱いでるのか。 (ほら、早くしろって) (いつもだったらさ、もう硬くなってんのに) (お前がちゃんとやればいいんだよ…早く入れて欲しいんだろ) (あぁ…なんか…もっと) (ほら、飲み過ぎなんだよ。ぜんぜん勃たない)  芙実君、怒ってる? (あぁ、もういい…お前からしてやるよ) (あっ…いやん)  ガサゴソと布団の音? (う…あぁん) (あぁ…芙実…気持ちいいか?) (うん…いい…ねぇ、もっと)  芙実君の息遣いが聞こえる。 (芙実…お前のちんこ触ってたら、俺も勃ってきた) (あん…いや…離したら) (こっちの方が気持ちいいだろうが)  少ししてパンパン音。  芙実君は射精し損ねたんだろうか…今は後孔を攻められ中か…  相手の男って全く自分勝手な奴だな。最後までいかせてあげたらいいのに。可哀想な芙実君。  ああ、俺のバカバカ。何を感情移入してんだ。  絶対に朝までヘッドフォン外さないぞ。

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