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第14話

 芙実君がくれたお守りとタコ様のおかげで、一次試験は前回と違って手応えがあった。ネットで解答速報を見てもいい感じだ。今回はたぶんいけてそう。  俺は土曜日が待ち遠しかった。芙実君にこのことを早く伝えたかった。  正式な発表はひと月後だけど、一次は合格したと見込んで、俺はニ次試験に向けての対策に取り組んだ。    そして、金曜日の夜。  俺はベッドフォンをするのを忘れていた。  玄関外の廊下で声がしてる。芙実君と相手の男だ。 (何が最後なんだよ) (大きな声出さないでよ)  バタンとドアが閉まる音。  部屋に入ったみたいだ。 (だから、何で今日で終わりなんだよ) (ハムスターの飼い主が、来週退院するんだよ)  えっ…ってことは。 (俺の役目はもうお終いなの…だから、ここの鍵もおばちゃんに返さないといけないんだよ) (でも、そのおばちゃんは週末はいないんだろ) (いないけど、俺はハムスターの面倒を見に来てるんだから、ハムスターがいなくなったら、俺がここにいる必要はないだろ?)  そうだよな… (でも、いないんだったら部屋借りられるだろ)  相手の男は食い下がってる。 (おばちゃんに、やりたいから部屋貸してなんて言えるわけないだろ) (言えるだろ、それくらい) (それに…) (それに?)  それに? (…な人がいるんだよ。だから、アンタとはもうやらない) (はぁ?…ふざけんなよ。じゃあ俺はもう用無しってわけか)  パシッ。ドン。壁が振動した。  ちょ…ちょっと、芙実君…大丈夫かな。  ドアが叩き閉められた音がした。  芙実君、何て言ったんだろう。相手の男があんなにも怒るようなことって…  それよりも、様子を見に行こう。芙実君、怪我してないといいんだけど。  コンコン。 「圭太です。芙実君…大丈夫?」  カチャリ、とドアノブが回って、芙実君が顔を出した。 「ごめん。騒がしくして」  芙実君の顔は部屋の灯りが逆光でよく見えなかったけど、左頬が赤くなってるみたいだった。

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