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第18話

 俺は合格した。念願の合格だ…なのに何だ、この気持ちは。心に穴が空いているような…その穴を埋めるように、二次試験対策のテキストを読みまくっている。でも、埋まらない。どうしても埋まらないんだ。  何で埋まらないのか、自分でもわかっている。わかっているのに見ない振りをしてる、俺。  芙実君、どうしてるかな…。    だめだ。今は試験のことだけ考えないと。二次試験まで、二ヶ月。頑張れ、圭太。  それから、またひと月が過ぎた頃。  ある日の朝。コンコン、と誰かがドアをノックした。 「はぁい」  誰だろう…?  俺はその日が土曜日だと、まだ気付かないでいた。 「藤澤さん。田ノ上焙煎所です」  えっ?…まっまさか… えぇっ!!!…ウソだろ  俺は慌ててドアを開けた。 「圭太、おはよ…久しぶり。元気だった?」  あぁ…芙実君…会いたかったよぉ…本当会いたかった。  芙実君は相変わらず今朝も爽やかな笑顔だけど、Tシャツにジーンズ姿だった。  今日は土曜日なんだ。芙実君の仕事は休みだ。 「ここの豆無くなってると思ってさ、陣中見舞いだよ」 「うわぁ、ありがとう。さぁ、どうぞ入って」  芙実君は、田ノ上焙煎所の豆を持ってきてくれた。仕事が休みのところを俺のためにわざわざ? な、わけないか… 「圭太のさ、コーヒーが飲みたくて…勉強の邪魔かなって思ったんだけどね…前と同じ時間だったらいいかなって…へへっ…来ちゃったよ」  なんか泣きそう。嬉しすぎて。 「嬉しいこと言ってくれて…任せてよ。飛び切り美味しいの淹れるから」  芙実君はニッコリした。 「せっかくだから、その豆使ってもいい?俺も飲みたかったんだよ、田ノ上焙煎所の」  芙実君は、はい、どうぞ、と言って渡してくれた。そして、あの時と同じように座卓を移動させた後、今日はいつもの場所には座らずに、俺が、コーヒーを淹れるのを見ようと、台所と六畳間の間の柱にもたれていた。 「何で、圭太が淹れると、美味しいんだろうな」  芙実君は俺の手元をじっと見ていた。  あの時みたいに毎週飲みに来てよ、とは言えない。 「あのさ、俺、やっぱり合格してたよ」  代わりに、試験合格のご報告。 「マジ⁈…」  芙実君は大きな目を更に大きくした。 「やっぱ圭太凄いわ。おめでとう。あれから俺も気になっててさ…ああ、よかった。本当おめでとう」  芙実君、気に掛けてくれてたんだ。  あぁ、今日は嬉しすぎる。  ボロアパートの部屋が光り輝いてみえた。

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