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第20話

 俺は、芙実君が好き。  それは、心の奥底に秘めていた想いだった。  好きだからって、どうしようというわけでもないんだけど。好きって、ちゃんと自分の気持ちを認めると、それはそれで一歩前に進めたような…うん?俺は、何処に行くんだ?  芙実君と一緒に合格発表を見ることが、今の俺の最大のモチベーションになった。  頑張れ、圭太。  その夜、俺は芙実君の夢を見た。初めてだ。 芙実君はずっと笑って、俺に話し掛けてくれている。俺は、あろうことか、芙実君の唇ばかり見ている。何を話しているのかは、わからないけど、ただ、血色のいいぷっくりした唇を見ていた。  そして朝、目が覚めたら、俺の下半身は元気だった。これが男の性なんだから、と仕方がないことにした。  けど、キスしたいのか?芙実君と。  俺の心は、すんなりと、はい、そうです、とは言わない。  おいっ。圭太、今は大事な時だろ、って、圭太その一が言う。  好きならキスしたいって思うのは、普通だろって、圭太そのニがしゃしゃり出てくる。  ほら、いつもの朝のルーティンをこなして、平常心で今日を過ごすんだ、と圭太その一。  今朝くらい、芙実君を想って一発抜いても、って圭太そのニ。  俺は、圭太そのニを力ずくでねじ伏せた。  そして、窓を開けてラジオ体操を始めた。  それから三週間後の土曜日の朝にも、田ノ上焙煎所です、って芙実君がコーヒー豆を待ってやって来てくれた。二度目の陣中見舞いだ。 「圭太のコーヒー我慢できるの、三週間がギリギリなんだよな…これ以上我慢すると、爆発する」  そう笑いながら、今日も美味しそうに飲んでくれる。その姿に癒される俺…。  芙実君、俺、頑張るね。  そして芙実君は、今日も、二次試験の日程を訊くと、早々に帰っていった。  二次試験を明日に控えた木曜日の夜。  やれることは、やった。  そう、俺は人生でこれほど頑張ったことがないくらい、頑張った。  明日の持ち物の準備も万端だ。受験票も入れた。三回確認した。  早めに布団に入ろうと、歯磨きをしていたら、コンコンって、誰かがドアをノックした。  誰だろう…こんな夜に。  俺は小声で、はい、と言った。 「圭太、ごめん、起きてる?芙実だけど…」  えっ…?芙実君?  まさか、コーヒーが飲みたくなったって…そんな訳は…ないよな。

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