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第23話
「芙実君…この間は、ありがとう」
俺は、コーヒーケトルに水を入れながら言った。
こらっ…お礼はちゃんと、その人の目を見て言わないと。圭太その一が怒った。
そうだけど…抜いてもらったお礼なんて、普通に堂々と言えるか?
でも、そのお陰で、お前の人生が変わるかもしれないんだぞ。今日の圭太その一は厳しい。
「ねぇ、ありがとうって…何が?」
座卓を移動させて、いつもの場所に座った芙実君は笑顔でこっちを見てる。
芙実君も目を見てちゃんと話すタイプか…
美味しいコーヒーを淹れてから、きちんと伝えよう。今日は、いつも行ってるコーヒー豆屋さんにアドバイスをもらって試した圭太ブレンドだ。
三種類の豆を混ぜてみた。結構イケてると思うんだけどな…カリカリと挽いていると、もう、いい香りがする。
「はい。お待たせしました。今日は圭太ブレンドです」
俺は、芙実君の前にカップを置いた。
「へえ…すごいな。圭太ブレンドって、圭太が自分で配合したんだ」
「まぁ、お店の人にアドバイスもらってだけどね」
芙実君は、いい香り、と言って、ふぅふぅした。その様子をつい、じっと見てしまう。
やっぱり芙実君がふぅふぅするのは可愛いな。
その時、芙実君の美味しい、って言葉と、俺のあのさ、が、重なった。
お互いに目が合って笑った。
「あのさ…」
俺から先に言った。
「この間の二次試験だけど、試験の出来栄えは俺なりに満足してるんだ…それは、その三日間ともリラックスして試験に臨めたからで…だから…それは…その、芙実君がさ…」
うん?…芙実君の顔がニヤついてるぞ。
「…俺が何?」
もう、わかってるくせに。
「抜いてくれたから…次の朝さ、起きたらめちゃくちゃスッキリしてたんだ…だから、リラックスできた。ありがとう」
芙実君は、どういたしまして、って笑顔で言ってくれた。
俺の心の中で何回も言ってる好きって言葉。
あぁ、この気持ち…どんどん大きくなってる。
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