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第25話

「何か…ごめん。でも、どうやって返したらいいか、わからないよ…返したくはないんだけど」  何、言ってんだ俺。その一、そのニはどうしてんだ、こんな時に。 「もう…嘘だよ。圭太って真面目なんだから」  芙実君は優しい顔で俺の頬を撫でた。 「俺、嬉しかったんだよ。圭太が、俺としたいって言ってくれて…まぁ本当はキスだったけどね。それでも嬉しいよ。俺ね、圭太のことが好きになったから、もうアイツとするのはやめようと思ったんだ…圭太はこんな俺のことをどう思ってくれてるのかわからないけど、でも一緒にコーヒーを飲む時間は俺には宝物みたいな時間なんだよ」  俺は頭で考えるより先に、芙実君を抱きしめていた。 「芙実君…俺…芙実君が好きだ。だからキスは返さない」  芙実君は、俺に抱きしめられたまま、うん、って小さな声で言った。  芙実君の髪は今日も石鹸の香りがした。  俺は、また頭で考えるよりも先に、芙実君の唇に自分のを重ねていた。  真面目ストッパー圭太その一でもなく、スケベですぐそそのかす圭太そのニでもなく、今キスをしているのは、圭太その三か…その三はどうも情動的なようだ。    芙実君のぷっくりとした可愛い唇を何度も食んで、あろうことか、舌まで捩じ込もうとしている圭太その三。でも、嬉しいことに、芙実君もそれに応えてくれている。  俺、ずっと前から芙実君とこんなふうにキスしたかったんだな。  長いキスの後、芙実君は細い指で俺の唇に触れながら、優しい声で甘えるように訊いた。 「じゃあさ、合格祝いは…どうする?」 「キスをしてから…」 「…してから?」 「その後で…」 「…その後で?」  芙実君のオウム返し…可愛い。  あぁ、何て言おう。  したいって…そのまま言ってもいいかな。 「しても…いい?」 「いいよ」  圭太その三は、また、芙実君の唇を奪った。

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