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第29話

 芙実は、温まったぁ、と言いながら、頬をピンク色に上気させて台所に来た。  俺のスウェットは少し大きかったみたいで、手足をダボつかせてる姿が子供っぽくて、思わずクスッと笑ってしまった。 「圭太ってさ、細く見えて結構肩幅とかあるんだな」 「ごめん。長く着てるから、だいぶゆるゆるに伸びてるかも」  俺は、出来上がったラーメンを丼に入れた。 「いい匂い。ああ…ここでコーヒー以外の匂いって初めてだ」  そうか…いつもはコーヒーだけ飲んで、早々に帰ってたもんな。初の食事だ。ラーメンはちょっと味気ないけど、でも芙実が食事してる様子を初めて見られるんだ…って、喜んでる俺。大丈夫だよな?  六畳間に敷いてる布団を隅にやって、座卓を移動させた。芙実はいつもの場所で、いただきます、と笑顔でラーメンを啜り始めた。可愛い。  そうだ…俺はふと気付いた。布団だ。  ハム太が帰ることを聞いたあの夜は、まだごろ寝をしてもいい季節だったけど、さすがに今は寒い。ウチには布団は一組しかない、ってことは添い寝か…ニヤける。寝る時になって言うより、先にお伝えしよう。 「あのさ、芙実…ウチさ、布団一組だけで、今晩は一緒の布団で寝ることになるんだけど」  芙実のラーメンを食べる箸が止まった。 「えっ…じゃあ、前に泊めてもらった時、俺一人で占領してたんだ…ごめん」 「あっ…ああ…ほら、あの時はさ、寒くもないし、ぜんぜん平気だったけど、今は、ちょっと寒いかなぁって。でも、俺の家の掛け布団は大きめサイズだからさ、そんな引っ付かなくても大丈夫だし…」  芙実は、遠慮がちに話す俺を見て笑った。 「明日、やろうっていう仲なのに、なんでそんな言い方するのかな?圭太君は…じゃあ、早く引っ付いて寝よう」  芙実は残りのラーメンをかき込んだ。ご馳走様って、言うと丼鉢を台所に持っていき歯磨きを始めた。  俺は目尻が下がっていくのを感じながら、この家唯一のクッションにタオルを巻いて芙実の枕にした。すると、その様子を見ていた芙実は俺の背中に抱きついてきた。 「圭太の枕貸してよ」 「…えっ?いいけど、じゃあカバー替えるよ」 「もう。そのままがいいんだよ」  芙実は布団に潜り込んで俺の枕に顔を埋めた。 「圭太の匂いだ…。コーヒーの香りの次に好き」    もう…そんなに俺の心を掴んで、どうしてくれるんだよ。  俺たちは、肩を寄せ合って目を閉じた。

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